作中には、登場人物たちの常軌を逸した飲酒ぶりがコミカルに描かれる。血中アルコール濃度を0.05%に保つために授業中でも酒類を摂取したり、誤ってそれを生徒が飲んでしまったり、酒宴を繰り広げた挙句に実験メンバーの1人が半裸で街を練り歩いたり、可笑しさとともに、悲哀をも感じさせる場面が多々用意されている。
(C)2020 Zentropa Entertainments3 ApS, Zentropa Sweden AB, Topkapi Films B.V. & Zentropa Netherlands B.V.
「私たちはこの映画を人生についても考える映画にしたかった。ただ『生きている』のではなく、本当の意味で『生きることについて』の。(観客の皆さんにとって)人生賛歌の作品に仕上がっていれば良いなと思っています」
日々を充実して送るために、「血中アルコール濃度0.05%」を試すが、やがてその実験は過剰な方向へと進展して、思わぬ結果を生み出す。最初は変化のない人生に一石を投じる「実験」であったが、予測されていたものとはいえ、そこにはメンバーたちの気の緩みも生じていたのだ。
不思議と教訓臭など微塵も感じさせない作品とはなっているが、酒をあまり嗜まない人間でも立ち止まって人生を再点検したいという気持ちにさせられる作品でもある。
主人公のマーティンを演じるのは、2012年に、同じくトマス・ヴィンターベア監督とコンビを組んだ「偽りなき者」で、カンヌ国際映画祭の主演男優賞に輝いたマッツ・ミケルセン。2006年の「007 カジノ・ロワイヤル」で、ジェームズ・ボンドの好敵手を演じて、世界的にも名前が知られるようになった俳優だ。
『アナザーラウンド』9月3日(金)全国公開(C)2020 Zentropa Entertainments3 ApS, Zentropa Sweden AB, Topkapi Films B.V. & Zentropa Netherlands B.V.
最近では、「ドクター・ストレンジ」(2016年)や「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」(2016年)などでの作品にも顔を見せている。
デンマーク出身の演技派俳優として「北欧の至宝」とも呼ばれるミケルセンは、バレエ学校でダンスを修得し、俳優になる前は10年間、ダンサーとしても活躍していた。
作中でもミケルセンが華麗なダンスを披露する場面が描かれるが、作品のなかでも白眉なシーンとして強く印象に残り、生命感に溢れたカタルシスを感じさせてくれる。監督もこのシーンを撮影するために作品をつくったのではないかと思わせるくらいだ(もちろん、そうではないと思うが)。
ちなみに、延々と酒を飲むという物語ではあるが、出演者たちは撮影現場ではいっさい酒類を口にすることはなかったという。つまり作中に登場する泥酔場面でさえ、すべて出演者たちの「演技」なのだ。英題は「Another Round」だが、デンマーク語の原題は「Druk」。まさに「大酒飲み」という意味なのだそうだ。
連載:シネマ未来鏡
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