血中アルコール濃度0.05%で人生好転? 酒を飲み続けるという実験の行方 |映画「アナザーラウンド」


翌朝、ニコライから聞いた血中アルコール濃度0.05%の理論を実証してみようと、マーティンは1人で実験を始める。それを聞きつけたディナーに出席したメンバーが、それならみんなで試してみようと集まり、学校内でも常に血中アルコール濃度を0.05%に保つというルールを設定する。

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0.05%の効果は覿面に現れ、マーティンはこれまでになく生徒へ雄弁に語りかける授業を行い、彼らから喝采を浴びる。家族との間の距離も積極的にカヌー旅行へ出かけることで解消する。他のメンバーたちも、自ら行う授業が活況を呈し、血中アルコール濃度0.05%の効果を実体験することになる。

気を良くしたマーティンは、より高い効果を期待して、濃度制限をなくすことをメンバーに提案し、自らも0.12%にアップする。すると見た目にも尋常ならざるハイテンションとなるが、授業はさらに盛り上がり、生徒たちの心もつかんでいく。それを目撃したニコライが、実験をさらに高度な領域に押し上げたいとメンバーに提案するのだったが。

作品の冒頭では、同僚教師4人のエピソードの前に、この高校で行われている恒例行事の様子が描かれる。それはビールを飲みながら長距離走をするというイベントで、いきなり観客は酒類の洪水に見舞われる。登場人物たちがずっと酒を飲み続ける物語には、実にふさわしいキャッチーなイントロダクションだ。

この映画の舞台であるデンマークでは、ビールやワインなどアルコール度数が16.5%以下の酒は16歳から店頭で購入可能で、それ以上の酒類とレストランやバーでの飲酒は18歳からだという。しかしこれらは店に対する法的規制であり、飲酒に対する年齢制限は法律的にはないのだという。作中にも「酒飲みの国」という表現が登場する国柄だ。

「北欧の至宝」の華麗なダンスが白眉


映画「アナザーラウンド」は、今年度のアカデミー賞で国際長編映画賞(2018年度までは「外国語映画賞」)に輝いた作品だ。しかもデンマークとオランダとスウェーデンの合作映画であるにもかかわらず、アカデミー賞の作品賞にもノミネートされたほか、世界各地の映画賞でさまざまな賞の栄誉に浴している。

登場人物たちがひたすら酒を飲み続けるというユニークな作品内容にも注目が集まっているのだろうが、一見、普段の日常生活からは逸脱したような行為が、最後には見事なヒューマンドラマにまで昇華されていくのが、この作品の大きな見どころかもしれない。

監督であり、トビアス・リンホルムと共に脚本も執筆しているトマス・ヴィンターベアは、この作品について次のように語る。

「もともとアルコールを祝福する映画をつくろうという考えから企画は始まりました。でも、脚本の執筆に取りかかってからまもなく、アルコールに関する作品をつくることには責任が伴うことにも気づかされたのです。なので、酒が抱える闇の部分も描かずにはいられなかったのです」
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文=稲垣伸寿

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