ハンガリーのブランドに学ぶ、異文化を正しく「適用」する方法

ブダペストにあるナヌーシュカ本店(Nanushka)

テキスタイルデザイナーであれ、プロダクトデザイナーであれ、過去、クリエイティブ領域に関わる人たちには“お決まりの台詞”がありました。

「私は世界中を旅し、さまざまな素材に触れ、新しいデザインコンセプトをつくっている」

これです。多くの文化要素を取り入れるのがクリエーターの腕前であり、センスの良さである。この考え方が広く定着し、また支持されてきたのです。

アフリカ、中央アジア、南米、南太平洋など、新興国に積極的に足を運ぶことが、先進国のクリエーターの仕事であると評価されました。文化に優劣はないとの文化相対主義をとる態度は文化に対して誠実である、というニュアンスもあったかもしれません。

適用か、盗用か


しかしながら、この数年、異文化やそのモチーフを自らのデザインに採用するには、種々の神経を払わないといけない状況になりつつあります。殊に、政治的、経済的、文化的に優位にある国の企業がその他の文化圏の素材を使う時、「cultural appropriation」というクレームが出ないかを事前にチェックする必要がでてきました。異文化要素を安易に使い過ぎた結果です。

すでにクレームや炎上を起こした事件の当事者には、ルイ・ヴィトン、グッチ、ドルチェ&ガッバーナと有名ブランドが並びます。日常で可視化しているファッションの世界がどうしても標的になりやすいのです。

「cultural appropriation」は「文化の盗用」と訳されるケースが多いですが、正確を期せば「異文化要素の適用」が意味として適当かもしれません。

この件について、英国のマンチェスターメトロポリタン大学でファッション文化史を教えるベンジャミン・ワイルド氏にインタビューしました。彼は次のように述べます。

「いかなる時代においても文化トラブルは避けられません。文化を異にする人々の交流のなかでは当然です。cultural appropriationに関しては、特に1980年代以降に関心が寄せられるようになり、この数年はファッションの分野で一層顕在化してきました。トラブルは必ずあるので、いかに防ぐか、起こったらどう対処するかのセンスが求められます」


ベンジャミン・ワイルド氏

ワイルド氏は米国・ノーザンアリゾナ大学リチャード・ロジャーズ氏(文化人類学)の論文における4つの文化交流を紹介してくれました。4つとは(1)交流(2)支配(3)悪用(4)文化融合であり、2と3が文化盗用としてネガティブな範疇になります。1と4は友好的で公平な文化交流です。

「cultural appropriationには2つあり、cultural appropriationとcultural mis appropriationです。後者が盗用にあたります」とワイルド氏。前述したように、「異文化要素の適用」とニュートラルな訳語をあてるのが適当だと考える理由は、彼の意見に賛同するからです。
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文=安西洋之(前半)、中野香織(後半)

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