急きょ緊急事態宣言下で規模を縮小し、22の事業所で分散して行うプレ開催という位置づけに。オンラインでも配信したところ、2日間の参加者は延べ約5000人に上り、盛況だった。本開催は10月30、31日に決定し、より規模を拡大する。
全国各地で地場産業を盛り上げるために産業観光イベントが開かれるが、ひつじサミットは尾州産地で繊維業を営む11人のアトツギ(後継者、後継予定者も含む)が立ち上がり、ものづくりを体感できる場でありながら、サステナブルとエンターテイメントを軸に据えたのが新しい。
(前回の記事:羊毛は、究極のサステナ素材? 「尾州ウール」産地がいまアツい理由)
民間主導で広げていくため、繊維業界だけでなく、地域の飲食店や学生たちにも声をかけて展開した。また、地元で人気なラジオ局「ZIP-FM」の番組に1カ月間ほど実行委員会メンバーが出演したり、「羊の皮をかぶった狼」であるウルフィがキャラクターの地元テレビ局「名古屋テレビ(愛称:メ~テレ)」にも声をかけてオンライン配信をしたり、発信にも注力した。初開催だったが、どのように地元を巻き込んでいったのか。
繊維メーカーが羊を飼い始めた理由
尾州ウールの産地は、愛知、岐阜両県の木曽川流域にあり、のどかな田園地帯の住宅街に広がる。今回の会場のひとつ、天然繊維素材を手がける三星グループ(岐阜県羽島市)に到着すると、入り口で「メェー」と野太い声で羊たちが鳴いて迎え入れてくれた。土曜日の昼下がり、すでに家族連れが羊の餌やり体験をしていた。この羊たちは、ひつじサミットを機に飼い始めたという。アイコン的な存在だけでなく、除草する役割を担う。
またウールを扱う企業でありながら、原料の羊毛自体は輸入しているため、社員たちがその元となる羊に思いを馳せることは少ない。毛刈りなどを通じて事業の根源となっている羊と触れ合うきっかけにもなっている。平日でも地域の子どもや近所の人たちが羊を見に玄関まで入ってきて、交流することもある。
三星グループの入り口では、羊が迎え入れてくれた
オフィス&ファクトリーツアーでは、商談スペースに50年超のアーカイブ資料となるウール地がずらりと並び、羊の種類によって仕上がりの違いを学んだ。元社員食堂だったという天井の高い建物には、大きな織機がいくつか並んでいた。工場近くには自宅で家族で機屋(はたや)を営む人たちがおり、長く外注してきたが、高齢化に伴い、その数は減少。そこで、自社でも生地を織る拠点をつくるため整備したという。参加した人たちは、織機で織る前に、経糸(たていと)を1本ずつわずか数ミリの穴に通す「綜絖通し」を体験し、その作業の細やかさに驚いていた。
「綜絖通し」を見学する参加者
食と生地、羊がつなぐ共通点
この日のクライマックスは、北海道の羊飼いの酒井伸吾さんを招き、三星グループの岩田真吾社長とトークショーをしながら、その場で丸焼きした羊を酒井さんがさばき、ラムバーガーにして命を分け合うという食育体験だった。一見、尾州産地とは関係のないように思えるが、食と生地の意外なつながりを知ることになる。やはり「羊」がキーワードだった。
酒井さんは、北海道の白糠町で2001年から「羊まるごと研究所」として、東京ドーム5個分に当たる面積20ヘクタールの牧場を営み、300頭もの羊を育てている。羊肉をレストランに卸すほか、羊毛の販売も行なう。毛刈りの技術を学び、糸紡ぎや編み物、織物なども自ら手がけてきた。