記者のち精神科医が照らす「心/身」の境界

心療内科の診察でLGBTQ+の人たちと出会い、感じたことは(Shutterstock)

コロナ禍が収束しないなか、いよいよ延期されたオリンピックが開かれる。史上初のトランスジェンダー選手が出場することが発表され、話題になっている。ニュージーランドの重量挙げ選手で、性別適合手術を受け、東京五輪では女子87キロ超級に出場する。

43歳のローレル・ハバードさん。8年前に性別適合手術を受けるまでは男子競技に参加、昨年は女子ワールドカップで優勝した。競技の不公平性を一部の選手が訴えたが、国際オリンピック委員会はトランスジェンダー選手の女子競技参加に対し、男性ホルモンであるテストステロンの値が12か月間、一定以下なら認めるガイドラインを策定している。

今回は、自身の性別に揺らぐ人たちに焦点を当て、五輪の5色ならぬ、LGBTQのシンボルカラー「虹色」の話をお届けする。

前回記事:コロナ禍の長梅雨に 精神科医と考える「清潔/不潔」の境界

障害者のスポーツ大会は戦後、負傷兵士のリハビリとしてイギリスで始まり、1988年のソウル五輪からオリンピックと並ぶパラリンピックとして定着した。ここには健常者と障害者が同じ土俵で戦うのは不公平という暗黙の了解がある。

では、冒頭の重量挙げのように男と女はどうなのか。一見、すべての肉体的条件は男が有利に見えるが、もし100km超マラソンで男女が競ったら、男子より脂肪の多い女子が勝つのでは、との研究もある。

生き物の世界に見る、多様な性のあり方


私たちは日ごろ、子孫を残すためには強い雄(オス)と子を産む雌(メス)のカップルが必要であることが普遍の法則のように思い込んでいるが、生き物の世界をのぞくと、そんな先入観がくつがえる。

たとえば水族館で人気の熱帯魚クマノミ。すべての稚魚が雄で、雌は一匹もいない。繁殖期になると、いちばん大きな雄が雌に性転換する。残りの雄の中で最大の個体のみが雌と交尾し、雌が死ぬともっとも大きな雄が雌に性転換する。逆に、掃除魚として知られるホンソメワケベラは、最大の雄が他の雌すべてと交尾をし、雄が姿を消すと最大の雌が性転換して次のハーレムをつくる。

一方、ボネリアという海の無脊椎動物は体長1mの雌の体内で、わずか5mmの雄が雌の体液を養分にして暮らし、雌の産卵時だけ精子を作る。

クマノミ
熱帯魚のクマノミは、繁殖期になると一番大きな雄が性転換する。このほかにも性転換する生物は多様だ (Getty Images)

また、多くの魚類・爬虫類は卵が孵化(ふか)するまでの温度で性別が決まる。ほとんどのカメは温度が低いと雄になり、トカゲは逆に雌になる。

動物だけではない。ヒトの性が決まるのにも順序がある。

まず受精時の染色体が46XXか46XYに分かれるが、どちらも胎児7週目までは同じ経過をたどる。その後、Y染色体に性決定遺伝子SRYが存在するとはじめて、性腺が精巣に変化し、そこから出る男性ホルモン(アンドロゲン)のシャワーを浴びて男の外性器が作られ、SRYがないと卵巣から子宮や膣に分化していく。

生命の動的平衡を説く生物学者、福岡伸一さんが書くように、「生命の基本仕様。それは女」なのだ(『できそこないの男たち』光文社新書)。

同書では昆虫のアリマキを例に引く。雌だけで遺伝子の同じ子を産み(単為生殖という)、えさの無くなる冬にかけてだけ染色体を減らして不完全な雄を作る。2億年前に現れたアリマキは、地球環境の変化に対応するために、あとから両性生殖を付け足した。

こう見ると、性は男か女かの二者択一ではなく、生物学的に多様な広がりを持つことがわかる。

文=小出将則

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