今年は梅雨前線が早くから日本列島を覆い、じめじめした天気が続く。梅雨は同じ音読みの「黴雨」(ばいう)とも書く。黴(カビ)の生えやすいこの季節由来とされるが、コロナ禍で黴(ばい)菌を恐れる人が増えているなか、今回は不潔恐怖に悩む人たちを取り上げる。
最初に知識のおさらいをしておこう。ばい菌は日常広く使われる言葉だが、専門用語ではなく、細菌、真菌、ウイルスなどを含んだ総称だ。
(前回の記事:実は5月だけじゃない。精神科医が明かすコロナ禍の「五月病」と処方箋)
細菌とウイルスの違いは?
細菌は英語でbacteria。ギリシャ語の「小さな杖」が語源。19世紀に観察された時の形状からそう呼ばれた。最初に発見したのは17世紀のレーウェンフック。画家フェルメールと同郷の「微生物の父」は手作り顕微鏡で湖水を観察中、奇妙に動く物体を見つけ、微小動物と名付けた。そのなかにいるのが細菌だった。
形は棒状、球状、らせん状などで、細胞壁の中に遺伝子を持ち、素早く分裂して増殖する。地球上のあらゆる場所に生息し、動物の消化管にも寄生する。細菌は病原性を持つものばかりではない。ビフィズス菌、納豆菌など有用な細菌もある。
一方、同じ「菌」という字が使われていても、真菌は全く別。パンや味噌に使われる酵母も真菌の一種というと親近感のわく人もいるだろうか。一般にカビと言えば真菌のことで、分類上は細菌よりもヒトに近い(真核生物という)。
じくじくした梅雨に思い浮かぶ病気の代表である「水虫」は、白癬菌という真菌が原因だ。他にもAIDSなどで免疫力が低下すると体内深部で悪さをするタイプがある。
そして、ウイルス。新型コロナウイルスが世界中で流行したため、いまやウイルスを知らない人はいないが、細菌との違いをしっかり知るとなると話は別だ。
細菌より桁違いに小さく、みずからの細胞を持たないのが特徴。ウイルスのみで増えることはなく、他の生物(宿主)に侵入して、みずからの遺伝子のコピーを作らせる。栄養だけあっても代謝せず、自己増殖もしないので、定義として生物と無生物の「境界」にいる存在といえる。
医学的に押さえておくべきなのは、細菌に使う抗生物質は効かないことだ。ほとんどの風邪はウイルス性なためで、抗生物質を安易に処方するのは "やぶ医者” と考えてよい。
不潔恐怖がコロナ禍で悪化 「赤色が無理」になった女性
コロナ禍以降、感染を気にする人々が増えた。当院にも不潔恐怖の患者が診察に訪れるが、彼ら彼女らの心配の種はコロナばかりではなく、それぞれの関心やこだわりによって十人十色であることを見ていこう。
昨年5月の連休明け、一回目の緊急事態宣言中に40代の主婦、赤羽武利子さん(仮名)が来院して、こう訴えた。
「気になることがあると、それが頭から離れない。とくにコロナ禍になってからがひどい」
聴けば、10年以上前からドアノブやつり革に触れないのが始まりだった。それがいまは赤色が無理、とのこと。