今回はコロナ禍で、季節に関係なく生じた「五月病」にスポットライトを当て、業務と顧客、上司と部下、会社と地域社会の境界で立ち尽くすビジネスマンたちの苦悩を照らし出す。
(前回の記事:高体温で差別された青年 精神科医の私が「分断ウイルス」と呼ぶ理由)
雅子さまの「適応障害」と「五月病」
実をいうと、私が「五月病」と聞いて真っ先に思い浮かぶのは、新入社員や学生ではなく、皇后雅子さまだ。そのわけを説明しよう。
昭和天皇ご病気のころ、マスコミ各社は腕利き記者を宮内庁に送り、天皇の病状取材と並行して皇太子妃スクープを狙っていた。
当時、新聞記者だった私も宮内庁担当となり、何人ものお妃候補を追っていた。そのうちの一人が小和田雅子さんだった。外交官の父・恒さんは鮭養殖で有名な新潟県・村上の出身。冬、現地で腰まで雪に埋まりながら菩提寺捜しをし、地元紙記者の大滝薫さんの協力を得て、戦国時代まで家系図をたどることができた。
1992年、記者を辞めた私は医学部に入学。その翌年、皇太子妃が発表された。雅子さまの名を聞いた時、苦労した取材を思い出して感慨に浸ったし、8年越しの愛子さま出産は我が事のようにうれしかった。
しかし2004年、雅子さまは医師団から「適応障害」と診断され、長い療養期間に入った。思えば、前年の帯状疱疹による療養はその前触れだった。
帯状疱疹は幼少時にかかる水痘(水ぼうそう)ウイルスが体内の神経節に潜み、成人後ストレスで免疫力が落ちると活性化して体表に現れ、発疹と痛みが生じる疾患。9割以上の人がウイルスを持ち、3人に1人が発症するといわれる。雅子さまも宮中生活でのストレスが取りざたされた。
ここでやっと、五月病とつながる。適応障害は、「ストレスにより引き起こされる情緒、行動のトラブルで社会的に著しく困った状態」と定義される。
五月病は、新学期や新年度の緊張する環境から一転、大型連休となり、その後再度活動的になるべき時期に自律神経のバランスが崩れ、だるさや不眠、憂うつ感などが悪化する状態で、本質は適応障害と同じだ。
注意すべきはストレス過多の状況になれば、5月以外でも生じること。とくに、昨年来のコロナ禍ではいつ起きても不思議でないし、本格的なうつ病に移行することもある「境界の病」である点は知っておくべきだろう。
のどが詰まって眠られなくなった、40代の金融マン
ある政府系金融機関支店に勤める40代の真中広郎さん(仮名)。公立大学の経済学部を出て入社し、20年以上の経験がある融資担当だ。ことし3月、私のクリニックを受診した。のどが詰まって眠られないという。
彼はもともと緊張すると、下痢しやすい体質だった。電車通勤の途中駅にあるトイレ位置はすべて把握している。