実は5月だけじゃない。精神科医が明かすコロナ禍の「五月病」と処方箋

コロナ禍で、季節に関係なく「五月病」を生じる人がいる。心身のメカニズムと対処法とは (Shutterstock)


昨年3月からのコロナ第1波。緊急事態宣言のさなか、5月の大型連休はずっと出勤だった。資金繰りに困った中小企業からの融資申し込みに対応し、残業も80時間を超えたが、その時は気力で何とか踏ん張った。

ところが、融資申し込みが前年の3倍となり、課長の下で困難な案件ばかりを受け持った。「コロナ融資は国の制度だろ」とある顧客に怒鳴り込まれてから、急激に気持ちが萎えてしまった。

真中さんはこう言う。

「最初は無利子の貸し付けに殺到したが、一度目はまだよかった。昨年末からの第3波で緊急事態宣言も2回目となると、民間(金融機関)の融資枠が振り切れて来る方や、一度目の元本が全く減ってないのに追加を頼みに来る業者もあって。給付金や補助金をきちんと受け取っているのか、事業を続けようという意欲はあるのかなど、悩む事例が急増して。中にはコロナ禍前から支払いがストップしているのに借りに来るつわものもいます」

ストレスと免疫の関係性


心身医学では、ストレスと免疫の関係が研究されている。一般に「ストレスは悪」とされるが、一時的なストレスはむしろ体の防御能力を高めることが分かっている。

腎臓の上にある副腎からステロイドホルモンの一種、コルチゾールやアドレナリンが放出され、細菌など外敵への抵抗力が増す。しかし、ストレスが1カ月単位の長期になると、臓器にも疲れが蓄積し、抵抗力は低下する。ボクシングのボディーブローが後からじわじわ効くような感じと思えばよい。

コロナ融資の初期対応ではなんとか健康を保っていた真中さんが悪化した背景には、こうした心身のメカニズムが関係している。診断は適応障害だが〝コロナ禍の五月病″と言い換えられる。

治療は、仕事環境の軽減が第一。さいわい理解のある職場で、難しい案件は他の行員に割り振られ、残業時間も減った。当院ではよく話を聴き、依存性の少ない睡眠導入薬などを処方して支えると、1カ月を過ぎたころから気分は上向き、眠られるようになった。

板挟みで苦しむ、大手メーカー勤務の50代男性


2人目は大手メーカー勤務の50代、羽佐間進さん(仮名)。工学系大学院を出て、今の会社へ。20年以上研究職として働いたのち、6年前に突然、畑違いの部署へ異動となった。

課長級なのに現場作業中心の業務で、上司からは「もっと仕事を取ってこい」とハッパをかけられ、部下からは「管理職なのに」と不満を漏らされ、板挟みの立場に悩んだ。3年間頑張ったが、限界を感じて3年前に当院受診となった。

そのうえに、このコロナ禍。テレワーク中心で、昨年4月に仕事が減ると「5月に挽回しろ」と上司からの叱声。

「営業活動をしたくてもコロナで行けない。通勤は電車だめ、自家用車なら高速代は自腹、そこで事故っても自腹と言われたら、俺、何やってんだと空しくなって」

不眠が悪化し、6月から自宅療養に入った。復帰時の配置換えを希望したが、会社側は元職に戻るのが原則とのこと。降格を申し出ても、懲戒理由がなければ無理と却下された。

結局、羽佐間さんは適応障害が完治しないまま、秋から以前の職場に戻った。皮肉にも、コロナ禍で在宅勤務が増え、自分自身を振り返る時間を持てたことから、憂うつ感とやるせなさは消え、休日には近郊の山登りで汗をかいた。
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文=小出将則

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