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2021.06.12 11:00

コロナ禍の長梅雨に 精神科医と考える「清潔/不潔」の境界

コロナ禍で手洗いを念入りにするようになった人も多いだろう。だが、何事もほどほどに──。(shutterstock)


赤い色を見ると、血液と結びついて、病気が移ると思い込んでしまうという。スーパーへ買い物に出かけても商品を触れない。コロナウイルスではなく、血が付いているのではと思うと、怖くて近づけない。なので、夫が夕食用の惣菜を買って帰る日々が続いていた。
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赤羽さんの話を聴いて直ちに脳裏に浮かんだのが、『あしたのジョー』(高森朝雄原作、ちばてつや作画)。私たち、1960年前後生まれの必読マンガだった。その初期の場面。詐欺事件を起こして鑑別所に送られた主人公矢吹丈が鑑定医師に心理検査を受ける。いくつかの単語を医師が挙げ、連想したことをジョーが答えるやりとりが秀逸だ。

医師 「赤」 よそを向いて答えないジョーに、再度「赤!」と問いかける
ジョー「まっかな血。ぽたぽたしたたる血…」
医師 「花は?」
ジョー「これまた血だね!」「こうやってまっすぐにのびたジャブ(パンチ)が顔面にさくれつしてさ…鼻から噴き出す鼻血を連想するよ」

赤羽さんにも同じ質問をした。赤からの連想は「スイカ、イチゴ、トマト、赤い風船」。ジョーと違って、こちらは普通だ。関連して、月経について質問をした。女性にとっては避けて通れない話題だが、なかにはトラウマとなる人もいる。さいわい赤羽さんは規則的に来ていて、生理前に調子は崩さないとのことで、ひと安心。
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赤から連想されるイメージは?
「赤」から連想するイメージは? 女性からはひと安心できる答えが返ってきた。(shutterstock)

赤羽さんがなぜ不潔恐怖になったのか本当の原因は分からない。ただ20代から潔癖となり、出産後、赤色から血を連想するようになり、コロナ禍で悪化したという流れはつかめた。

そのうえで治療はできる。暴露療法といって、カウンセリングであえて赤を話題に上げ、用意されたトマトやケチャップを触る訓練を繰り返す。赤に関する不安の程度を階層表にまとめ、夫の理解と協力を得るのも大切なポイントだ。

半年たち、3歳の長女に色鉛筆を与えることができた。娘が赤鉛筆で書きなぐるのを見て、「買ってよかった」と喜べるまでに回復した。

消毒薬を使いすぎては駄目な理由


一昨年秋、コロナが流行する前に不潔が怖いと来院したのが30代の鳥飼八名子さん(仮名)。9年前に長男を出産後、子どもが汚い物に触らないようにと思ううちに潔癖になった。

2年前、たまたま鳥の糞が落ちてきて手に付いた。以後、不潔恐怖はさらに悪化し、入浴に数時間かかるようになった。ゴミ箱に近づくこともできない。精神科2カ所に通ったが、改善せずに当院受診となった。

元々、鍵かけなど確認癖の強い性格だと分かり、こうした場合に有効とされる投薬を十分に行った。同時に不潔と思うことをランク付けしてノートに記入、それを基に考え方の修正を図る認知療法を続けた。

3カ月後、入浴時間は糞事件以前にまで戻り、半年後、コロナ禍が起きて、逆に症状は改善した。

「コロナだから外出するなと言われて、気分的に楽。空から鳥にやられることも少なくなるから」

鳥の糞に関して、興味深い記述がある。

傷の消毒法は水洗いしたあと乾燥を防ぐ「湿潤治療」が原則、と自説を展開する夏井睦医師は、著書『傷はぜったい消毒するな』(光文社新書)でケガの手当の歴史を紹介している。
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文=小出将則

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