ここで、LGBTQにまつわる用語の定義を確認しておきたい。
性をめぐる問題は差別との戦いの歴史でもある。「ホモ」や「レズ」といった表現は侮蔑の意味を含んでいるため、使用すべきではない。
LGBTのL(レズビアン)G(ゲイ)B(バイセクシャル)は、魅力と感じる性別(性的指向)が自分の同性(L=男,G=女)か両性(B)に向かう人で、T(トランスジェンダー)は自分の考える性別(性自認)が出生時に医師の判断した性別と異なる人をいう。
LGBTは最近「LGBTQ+」と表現され、胎児期に男女に分かれる時の問題から生じる性分化疾患(インターセックス)や、男女どちらにも性的魅力を感じないアセクシュアル(Xジェンダー)が認知されるようになってきた。
Qとはセクシュアリティ(性的指向・性自認などの要素)が定まっていない人、+はXジェンダーなどLGBTに含まれないセクシュアリティを持つ人をいう。
LGBTQ +の患者たちの訴えから
それでは当院に通うLGBTQ+の人たちに光を当てていこう。
30代の尾美名江志子さん(仮名)。父親の転勤のため小学校で転校し、人と話すのが苦手だった尾美名さんは、職場の上司から嫌がらせを受け、不安によるめまいが悪化して6年前に受診した。辞職して症状は改善したが、3年後に母親が末期がんと分かると再度不安に陥り、ストレスから食欲が止まらなくなった。
そんな彼女を優しく包んでくれたのが、新しい仕事先の同僚女性だった。尾美名さんが打ち明ける。
「最近、『彼』ができました。トランスジェンダー。FtM(出生時の性別が女で、男を自認)。自分のことを俺と言うんです。私、男性経験もあるけど、好きになるのは女性。ひと回り年上でおばちゃんっぽくて優しいし、面白いし、包容力がある」
尾美名さんは最初、男性への拒否感は無かった。しかし、交際した男は「腹黒い人が多く」、気づいたら同性への思いが募っていたという。
「彼が籍を入れたいから手術しようかと言ってくれたけど、そのためだけなら大変だし、パートナーシップ制度ができたらそれでいいと思っています」
40代の坊伊譲二さん(仮名)。中学でいじめに遭い、他人と親しい関係が築けぬまま成人した。いまは派遣社員として働く日々。他院で発達障害から派生したうつ病と診断され、5年前に当院を訪ねてきた。初診時から「男性の方が好き」と明言した。
当初は発達障害の話題が中心だった。淡々と筋道を立てて話す様子は感情を押し殺しているようにも見えたが、昨夏の診察では交際相手について気色ばんで語った。
「思い込みの激しい年下の男の子。私の頭の中で完全に手を切るか、好きなら一緒にいればいいかと争っている」
その後、相手は坊伊さんの元に引っ越してきた。親の許可を取り付けたという。
「同性のカップルは自分たちの子どもができないので生物の本能に反するという人がいる。でも、異性で子を持たないカップルもいれば、独身で通す人もいて、それは本人の選択だし、自由のはず。つき詰めると、平等とは自分のあり方を自分で決められること。まだ結婚しないの?という問いが無くなる社会になるといい」
性的マイノリティというだけで同情される風潮には毅然と反対する坊伊さんの言葉から、社会全体を俯瞰しようとする意志が読み取れる。
レズビアンとゲイは性自認と性的指向が同性で一致するのに対し、異なるのがトランスジェンダーだ。
20代の女性、源田由礼留さん(仮名)。中学時代から周囲に馴染めずに自傷を繰り返した。東京のイラスト専門学校に進んだが、課題が提出できずに中退。受診したクリニックで「躁うつ病」と診断されたが、治療は長続きせず実家に戻り、昨年暮れに当院初診となった。