現在INGでは、このようにサーキュラーエコノミーへの移行において銀行が新たに直面する課題に対し、顧客と日常的に接している営業部門と審査部門が協働しながら、新たなリスク評価フレームワークの開発に取り組んでいるという。銀行にとっては融資リスクを正しく評価できるかどうかは事業の生命線だが、サーキュラーエコノミーへの移行はその方法を根本から見直す必要性を銀行に投げかけている。
アムステルダムのING本社
パートナーシップへの融資で、スタートアップにも可能性が
企業の評価手法に加え、Joost氏がもう一つ大きく変わると話すのは、その対象だ。サーキュラーエコノミーにおいては「Close the Loop(循環を閉じる)」を1社だけで実現することは難しい。だからこそ、銀行は融資先の機会やリスクを正しく理解し、評価するためには、その企業だけではなくその企業が関わるバリューチェーンや業界全体を見る必要があるのだ。
「我々にとって新しいことは、よりパートナーシップに注目する必要性が高まっているということです。サーキュラーエコノミーは1社で実現することはできません。製品回収や部品の再利用などは自社では完結できないことも多く、サプライチェーン上はもちろん、バリューチェーンを超えてパートナーと協働することが求められます。
実際に、これまで競合関係にあった企業や、一見すると協業することが合理的には思えない企業同士のパートナーシップも数多く生まれてきています。この変化は我々にとっても重要です。我々がどのようにコラボレーションを促進できるか、それらのパートナーシップに融資することでどのように価値を生み出せるかが問われているのです」
単一企業ではなく、循環型バリューチェーンの実現に欠かせない他企業とのパートナーシップも含めて全体を評価するとなると、企業評価の難易度はより増しそうだが、その点についてはどう考えているのだろうか。
「たしかに、より多くのパートナーが加わるほど、評価が難しくなるという側面もあるかもしれません。一方で、小規模な企業にとっては別のポジティブな見方もできます。例えば我々銀行にとっては、スタートアップ企業に融資することは簡単ではありません。我々はお金を預けて下さっているお客様の資産を守る必要があり、リスクが高すぎる融資はできないのです。
しかし、もしそのスタートアップ企業が他のより成熟した大企業とパートナーシップを締結しており、彼らが製品開発に必要な資源を供給してくれることが確実なのであれば、そのパートナーシップに対して融資できるか可能性があります」
単一企業への融資からパートナーシップへの融資へと移行することで、スタートアップ企業に対しても融資の可能性が広がるというのがJoost氏の見方だ。
「スタートアップ企業はアーリーステージだからこそ、過去のレガシーや古い思考に捉われることなく、本当に革新的なアイデアやコンセプトに対してオープンでいられます。一方で大企業には規模の強みがあり、実際に物事を動かす力もあります。我々にとってはいずれも重要なのです」
融資を行う上で必要な「共通理解」
ING銀行は、自社内でサーキュラーエコノミーへの対応を進めているだけではなく、金融業界全体に対する働きかけも積極的に進めている。その代表例が、2018年7月にABN Amroらと共同で公表した金融機関向けの「サーキュラーエコノミーファイナンスガイドライン」だ。