先日、あるイベントでラクスルのCOOである福島広造氏と対談をさせていただき、面白い気づきを得た。当たり前のようにも思える転職の話だったのだが、よく考えてみると、それは日本の産業をアップデートしていくための人材流動の大切さを凝縮したような例だった。振り返ってみれば、私の会社でも当てはまることが起きていたのだ。
ラクスルは現在、印刷や物流、CMサポートまで幅広い事業を展開している成長ベンチャーだ。印刷事業では、全国にある町の印刷工場をネットワーク化して、彼らの機械が稼働していない空き時間に機械を利用することで、顧客にコストパフォーマンスが優れたサービスを提供している。実はこのモデル、言うは易しだが、実際のオペレーションに落とし込むには非常に高いハードルがある。
なぜなら、連携している印刷工場は、それぞれが印刷工程やITリテラシーにバラつきがあり、「このSaaSを使って受発注してください」と杓子定規にシステムの導入を促してもうまくいかないからだ。各社の事情や状況に合わせた説明が必要だし、程度の差はあれ、そこで働く社員にも、これまでと仕事の仕方が変わることに納得してもらう必要がある。さらに、導入するシステム自体が、どの印刷工場でも使いやすいように設計されていなければならない。
私自身、年間を通して非常に多くの町工場を訪問させていただくので、津々浦々の工場に新たなシステムを使ったオペレーションを導入する難易度が高いことはよく実感している。
では、ラクスルが実際の印刷工場のオペレーションにまで落とし込む作業を実現できたのはなぜか。福島氏によると、トヨタ自動車で製造サプライチェーン改善の高度な経験を積んだ人材が同社に転職してきたことが大きく影響しているという。この切り口は、非常に私の興味をひいた。