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2021.06.17 08:00

コピーされることは本物の証? ブランドと偽物をめぐる悲喜劇

グッチのクリエイティブディレクター、アレッサンドロ・ミケーレ(Getty Images)


グッチも当時の「被害者」だったわけですが、ミケーレはブランド価値を毀損したほかならぬその「加害者」とコラボして、「正規」のコレクションを作ったというわけです。フェイクと融合した本物はもはや真偽を問うことすらナンセンスにしてしまう妖しのオーラを放っていました。ちなみにグッチはこのコラボを「ファッションサンプリングの比類ない例」と自賛しています。
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ハイブランドが海賊版もどきを作って高く売ってしまう例もあります。2016年にヴェトモンのデムナ・ヴァザリアは、DHL(国際宅急便)の赤字が入った黄色のTシャツを発表しました。どう見てもバッタものにしか見えなかったこの製品は、約330ドル(約3万5千円)で売られ、ジョージア出身のデザイナーは一躍、スターになります。


ヴェトモン 2016年春夏コレクションのショーより(Getty Images)

その後、ヴァザリアはバレンシアのクリエイティブディレクターに抜擢され、イケアの青いショッピングバッグ(100円)と酷似した青いレザーバッグを2145ドル(約23万円)で販売します。安っぽい「本物」と高品質で品格さえたたえた「海賊版」(とあえて書いてしまいます)は、本物/偽物論争の出口なき迷宮に私たちを連れ込んでいき、議論が百出すればするほどヴァザリアの名声も上がりました。
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実際、本物と偽物の関係には、知的な興味を呼び起こさせるケースが少なくありません。両者は互いに互いを必要とし、時に世の価値観を転覆してしまうことさえあります。

シャネルが生んだ“偽物”ムーブメント


その最たる例が、ココ・シャネルによるコスチューム・ジュエリーでしょう。「本物」の貴金属や宝石だけを珍重していた時代にあって、「本物のジュエリー」を「財産を首からぶら下げて歩くなんてダサイ」と断罪し、「偽物」で遊ぶことこそ洗練の証としてコスチューム・ジュエリーを世に出しました。

孤児からの“成り上がり”であったシャネルが、上流階級の価値基準を転覆するというリベンジもあったと推測しますが、本物と偽物を融合してしまったシャネルは、結果として、アクセサリーの可能性を大幅に広げることに貢献します。

シャネルのそうした貢献があったおかげで、当時、真珠裁判を闘っていたミキモトも、養殖真珠を世に受け入れさせることに成功できたのではないでしょうか。 

1920年代当時、御木本幸吉の養殖真珠は、世界中から「偽物」として激しいバッシングを受けていました。高価な天然真珠でビジネスをおこなっていた西洋の宝飾業界にとっては、安価な養殖真珠が出回ったらひとたまりもありませんからね。いじめに近い締め出しに合ったミキモトは、すごすごと引っ込むことはせず、裁判で闘い続けるのです。
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文=安西洋之(前半)、中野香織(後半)

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