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2021.06.17 08:00

コピーされることは本物の証? ブランドと偽物をめぐる悲喜劇

グッチのクリエイティブディレクター、アレッサンドロ・ミケーレ(Getty Images)

グッチのクリエイティブディレクター、アレッサンドロ・ミケーレ(Getty Images)

100円ショップの商品の偽物を扱うのは旨味に欠けますが、高額のラグジュアリー商品と偽物は切っても切れない関係にあります。
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イタリアの高級ファッション企業で知的財産を担当する弁護士、ステッラ・パドヴァーニ氏は「世界各国の最終消費者から、自分の買った商品が本物かどうかの問い合わせをうけることが相変わらず多いのです。私が勤める会社では韓国からの依頼数が多いです」と話します。

OECD(経済協力開発機構)とEUIP(欧州連合知的財産庁)の2019年度の報告に基づくと、世界中の取引において知的財産侵害商品取引は、2013年と2016年を比較すると2.5%から3.3%に増えています。それも第三国から欧州連合への輸入に限ると5%から6.8%へと上昇しています。

偽物は、極めて広範囲の商品分野に出回っています。靴、化粧品、玩具、スペアパーツ、電話、バッテリー、アパレル、高級時計といった商品群だけではなく、薬品、食品、医療器具など健康や安全に深刻な影響を与えかねない領域にも及びます。被害にあっている企業の登記を国別にみてみると、OECD加盟国では米国を筆頭に、フランス、イタリア、スイス、ドイツと続きます。
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このレポートにはハイエンド商品に限ったデータが示されているわけではなく、また、不正の数字が正確に把握できるわけもありません。しかし、EU全体では、GDP(2011-2013年)の42%を知的財産に関わるビジネスが占めており、その上位3つは商標(35.9%)、デザイン(13.4%)、特許(15.2%)と並びます。ロゴとデザインが経済に貢献していることから、ラグジュアリー領域の被害の大きさが推察されます。

崩れた「偽物=低品質」の図式


こうした商品はどこで作られ、どのようにEU市場に入ってくるのでしょうか。

生産地は中国が最も大規模です。インド、マレーシア、パキスタン、タイ、トルコ、ヴェトナムが続きます。このなかで最近、トルコ製の皮革製品、食料品、化粧品等が目立ってきています。

取引経由地点では香港、シンガポール、アラブ首長国連邦が要注意国です。特に欧州市場向けであるとアルバニア、モロッコ、ウクライナが使われ、米国向けだとパナマが利用される傾向にあります。商品は生産国からこれらの国まではコンテナー輸送され、経由地でロットが少量にばらされ、郵便などで最終目的地に運ばれる仕組みになっています。

パドヴァ―二氏は、これらの商品の問題点を次のように説明します。

「鑑定の問い合わせは沢山ありますが、偽物の品質も向上したため偽物=低品質の図式が崩れました。ユーザーから品質面のクレームが出づらくなっています」。つまり、偽物が消費者側からは告発されづらい環境であるとし、「現在クローズアップされるポイントは知的財産権の侵害です」と続けます。
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文=安西洋之(前半)、中野香織(後半)

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