選考の対象となった鹵味(ルーウェイ)というジャンルは、八角などの中華スパイスや漢方を使った醤油の煮込み料理のことで、中国ではおやつ感覚のファーストフードだ。
また、小龍蝦(シャオロンシア)というジャンルは、ザリガニ料理のことである。
日本ではザリガニというと、泥川に生息しているせいか、食用というイメージはないが、中国では養殖のザリガニが、特に若い人たちの間で好んで食べられている。上海では2000年代前半からチェーン店もあるほどだ。
いま都内でもザリガニ料理を出す中華料理店が増えている。調理法もさまざまで、鍋にしたり、チャーハンやあんかけ焼きそばの具にしたりする店もある。
池袋にある上海料理店「新天地」のメニューより
とはいえ、中国の外食トレンドはこのようなジャンク系ばかりではない。最近、都内で専門店が現われている酸菜魚(スアンツァイユィ)も人気の美食なジャンルのひとつだ。重慶発祥の酸っぱく辛い魚鍋で、発酵鍋のヘルシーさとともに、酸味が加わることで、四川特有のシビれが抑えられていて、食べやすいのも人気の理由と思われる。
酸菜魚は、中国では川魚が使われるが、日本では白身魚を使うことが多い
中国の西域生まれの蘭州牛肉麺や、漢字の画数57という破格の多さで知られるビャンビャン麺(画像参照)のように、麺や快餐(ファーストフード)にも相当なバリエーションがある。
そして、こうした中国の外食トレンドのほとんどが、いまの東京でも供されているのである。
それを担っているのは、都内の中華料理店のオーナーや調理人たちである。彼らの大半が、ほかならぬ海を渡って日本に来た中国語圏の人たちであることから、筆者はこれらの店を「チャイニーズ中華」と呼んでいる。
近年の彼らの精力的な出店ラッシュがもたらしている新しい食のシーンを「東京ディープチャイナ」と名づけることにしたい。
東京ディープチャイナの特徴は大きく2つある。
まず、これまでであれば考えられなかった中国各地の珍しい地方料理が味わえるようになったこと。そして、数多くの中国の外食チェーンの出店により、最新の、現地の食のトレンドが体験できるようになったことだ。
それはすでに私たちの日常の風景の一部となっているのだ。これから当コラムでは、その多彩な素晴らしき味覚の世界を紹介していこうと考えている。
連載:国境は知っている! 〜ボーダーツーリストが見た北東アジアのリアル
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