登場するのは、ブックセラーだけではない。「どうでも良くないどうでもいいこと」や「嫌いなものは嫌い」などの著作があり、書店を愛してやまない作家であるフラン・レボウィッツは、ブックセラーを評して次のように語っている。
4月23日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開(c)Copyright 2019 Blackletter Films LLC All Rights Reserved
「昔はミッドタウンにいて1時間でも暇があれば、書店に行った。でも、私が『書店』と呼ぶのは個人経営の店だけ。その書店で働く人がブックセラーであり、彼らはウィンドウに並べる本を自分で選ぶ。(大型書店チェーンの)バーンズ・アンド・ノーブルとは違う」
所有者より長生きする本について語る叙事詩
もちろん、「ブックセラーズ」では、リアルな本が置かれている書店の厳しい現況についても鋭い分析を加えている。ウラジミール・ナボコフやガルシア・マルケスなどの資料や手稿を収蔵するアーカイヴィストとして知られるグレン・ホロウィッツはこう発言する。
「本は550年も流通してきた。しかし、いまは本への興味が薄れ、ここ最近の10年は文化の中心としての本の終わりの始まりだ。その理由は、ネットが人々の集中力を遮断していて、読書という活動が廃れてきている。人々が本を読まなくなった。それが本の売買を劇的に低迷させている」
「ブックセラーズ」で取り上げられている本は古書や希少本が多いのだが、それらに関わる人々はいずれも自分たちが扱う本の行く末を案じている。作品を監督したD.W.ヤングも、今回のコロナ禍にも絡め、作品を送り出した理由を次のように述べている。
「私は芸術や多くの知的で文化的な施設の今後について本当に心配しています。特に映画館や書店はいまの時期をいかにして乗り切るかが大切。もちろん、それらをサポートすることにも価値はあるが、私はリアルな本の重要性と書店を見てまわることで発見する楽しさもこの作品に盛り込みました」
確かにヤング監督の言うように、この「ブックセラーズ」という作品を観ていると、本を渉猟したり、蒐集したり、読書したりする喜びにも溢れている。しかもリアルな本に対するリスペクトも作中には満ち満ちている。ヤング監督は言う。
「(この作品は)本そのものがどのように耐え抜き、所有者たちよりも長生きするかについて語る叙事詩です。私は観客のみなさんに本の世界に没入してもらい、私たちが一緒に過ごしたブックセラーたちとの素晴らしい時間を感じて欲しかったのです」
「ブックセラーズ」を観ていると、いくら世界が進化してデジタル化の波が押し寄せようとも、リアルな本がなくなることはないと信じたくなる。また、書店も、これまでとは異なったかたちではあるが、この先も存在し続けていくであろうと期待させてくれる。
そして、この20年間で書店の数が半減した日本でも、例えば東京版「ブックセラーズ」などというドキュメンタリー作品を、誰かが監督して撮ってくれはしないかと、筆者は願ってしまうのだ。
連載:シネマ未来鏡
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