要因としては、アマゾンに代表されるネット書店の台頭、また紙の本から電子書籍への移行などが挙げられるが、長年、書店でのブックハンティングを愉しみとしてきた筆者としては寂しい限りだ。
このリアル書店の閉店という現象は、どうやら日本だけのものではないらしい。今回紹介する映画「ブックセラーズ」(D.W.ヤング監督)では、激減するニューヨークの書店の現状にも触れている。
この街で90年以上も店を構えている老舗のストランド書店の3代目は、「1950年代のニューヨークには書店が368店舗あった。いまではたった79店舗」と語る。かつてグリニッジヴィレッジにあった「ブックロウ」と呼ばれた書店街も、1927年には48もの書店が軒を連ねていたが、現在はストランド書店1軒だけになっているという。
「路上」のジャック・ケルアックや詩人のアレン・ギンズバーグなど、1950年代のビート・ジェネレーションのものが中心で、コレクターの店として知られていたスカイライン書店の店主は、閉店を決意した理由を「いまはネットで本を買う。ひどい時代だよ」と嘆く。
社会のデジタル化の波は本の世界を直撃しているが、このドキュメンタリー作品は、それを嘆き悲しむものではない。むしろ、いまもリアルな本を愛する多様な人たちをクローズアップし、その魅力を語り、来るべき未来を映し出して見せている。
父親が開業した老舗書店を引き継いだ三姉妹
映画「ブックセラーズ」は、古書では世界最大と言われる「ニューヨーク・ブックフェア」の場面から始まる。アッパーイーストにある南北戦争時代からの由緒ある建物の、かつては屋内テニスコートだったというスペースで開催されるブックフェア。カメラはそこに集うブックセラーたちを追っていく。
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16世紀のスペイン詩で博士号を得たが生活できず、古書ディーラーになったという男性は、「おかげで素晴らしい本を手にすることができた」とフェアの会場で語る。彼がスペインからやって来た小説家を案内したときのエピソードが面白い。
ミゲル・デ・セルバンテスが存命中の1611年に出版された「ドン・キホーテ」の4版か5版を見せると、スペインの小説家は「泣いていた」というのだ。しかし、彼が泣いた理由は、12万ドルという値段だったというオチもつく。
この小説家は、イアン・フレミングの007シリーズの第1作「カジノ・ロワイヤル」の初版が13万ドルだったことにも泣いたという。案内した古書ディーラーも、それは「誰もが泣くさ」とツッコミを入れる。