「イージー・ライダー」(デニス・ホッパー監督、1969年)、「明日に向って撃て!」(ジョージ・ロイ・ヒル監督、69年)、「スケアクロウ」(ジェリー・シャッツバーグ監督、73年)、「ペーパー・ムーン」(ピーター・ボグダノヴィッチ監督、73年)など、いずれもアメリカンニューシネマの代表作として、映画史に刻まれている。
時代背景としては、ベトナム戦争が泥沼化し、若者たちを中心に反体制のムーブメントが巻き起こり、人々の価値観も揺らぐという状況。そのなかにあって、社会の閉塞感を打ち破るかのように、主人公たちが新天地を思い描き旅をするロードムービーが、次々と生み出されていった。
映画「ノマドランド」もロードムービーだ。ただし、その主人公は、50年前に夢を抱えて旅立ったヒーローたちとは、少し事情が異なる。「ノマドランド」の主人公は、不況によって経済的な困窮にさらされた60代の女性だ。
彼女は仕事と家を失い、キャンピングカーに家財道具を積み込み、「ロード(路上)」に出る。短期の仕事をこなしながら車で渡り歩く彼女に、希望を叶える目的地があるわけではない。むしろ、旅することそのものが、彼女に心の平穏をもたらしているようにも受け取れる。
「ノマドランド」は、そんな主人公が遭遇する、彼女と同じように車で移動しながら、短期の労働で日々の暮らしを立てる「現代のノマド(遊牧民)」の人々を描いた作品だ。
ホームレスではなくハウスレス
アメリカ西部のネバダ州。60代のファーン(フランシス・マクドーマンド)は、亡き夫との思い出が残る食器などを積み込み、冬が近づく荒涼とした風景のなかを車で出発する。
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彼女が住んでいた町は、かつては大企業の石膏採掘と加工工場で栄えていたが、不況のあおりを受けて会社は撤退、ZIPコードも取り消されるほど、住民はこの地から去っていった。
ファーンは夫と2人で暮らした町は離れがたかったが、残された年金では生活はできず、仕事を求めて自ら車のハンドルを握る。彼女が最初にたどり着いたのは、年末の繁忙期で人手が必要なアマゾンの配送センターだ。
彼女はそこで、自分と同じように短期の仕事に就くために集まってきた人々と出会う。「家とは心の中にあるもの」と語る男性や、リーマンショックによって車上で生活するようになった女性など、それぞれの境遇を聞くうちに、彼女は自分の新たな生活に自信を深めていく。
車に改造を施して、生活しやすい空間に変えていくファーン。彼女は住んでいた町では臨時の教員もしていた。スーパーでたまたま会った教え子から、「先生はホームレスになったの?」と聞かれると、「ハウスレスになっただけ」と誇らしげに答えるのだった。