「ノマドランド」 ハウスレスな現代の遊牧民が求めるものとは

描かれるのは、家を持たず車上で暮らす「現代のノマド(遊牧民)」の姿だ(c)2021 20th Century Studios. All rights reserved.


ジャオ監督の「ノマドランド」でのアプローチは徹底している。マクドーマンドが演じる主人公ファーンを撮影する際は、徹底的に手持ちのアングルにこだわり、動きのある映像を切り取っていく。
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対して、劇中に何度も登場する荒野や山河などの自然描写では、カメラを固定して、人間たちの営みとは対比するかのように、厳然としてそこに存在するものとして描いていく。

「ファーンの進化は大自然のなかで起きます。荒野のなか、岩山のなか、森のなか、星空のもと、ファーンは自然のなかに身を置くことで独り立ちしていくのです」

ジャオ監督がこう語るように、劇中に何度も登場する自然描写は、主人公ファーンのその時々の心情を表している。とくに印象に残るのは、物語の終盤で一瞬だけ映される海の情景だ。それまでひたすら陸地を車で移動していた主人公が、波立つ海を見て何かを決意したかのようにも感じられる。
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「アメリカの資本主義はひどいと世に問うために、放浪するノマドを題材にしたわけではありません。私の目的は、このノマドの世界に身を投じて、ユニークな移動を続ける人々の視点からアメリカという国の原像に迫ることでした」

こう語るジャオ監督だが、劇中には、ノマドのことを「開拓者の生き方、これはアメリカの伝統」という趣旨の台詞も登場する。なによりこの作品でジャオ監督は、より根源的な問題である「人はなぜノマドとなり、旅に出るのか」を問うているようにも思える。

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『ノマドランド』3月26日(金)全国公開/配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン(c)2021 20th Century Studios. All rights reserved.

作品のプロデューサーも兼ねるマクドーマンドは、ノマドについては次のように語っている。

「興味深いのは、現在、とても多くの人が路上で暮らしていることです。それは主に経済状況が原因ですが、同時に閉じ込められていた人々が、自分たちの放浪に対する答えを見つけようとしているようにも思える。人間の精神には、移動することに関して何かがあるのだと思います」

もちろん「ノマドランド」では、家を持たず車で移動しながら生活する人たちの過酷な生活も描かれている。とはいえ一方で、定住することをやめて、自然と共生しながら暮らしていくノマドの人たちの、人生を達観したような姿も深く印象に残る。

そういう意味では、希望の地をめざして旅に出る半世紀前のロードムービーのヒーローたちとは異なる。むしろ旅すること自体が人生であるかのような、新たなロードムービーのかたちが示されているのかもしれない。

ちなみに、「ノマドランド」は、昨年のベネチア国際映画祭の最高賞である金獅子賞に輝き、アカデミー賞にもっとも近いと言われるトロント国際映画祭でも観客賞を受賞。直近のゴールデングローブ賞でも作品賞(ドラマ部門)と監督賞を受賞しており、4月25日(現地時間)に授賞式が行われるアカデミー賞では作品賞の最有力候補との呼び声も高い。

連載:シネマ未来鏡
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文=稲垣伸寿

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