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2021.03.27 17:00

社内にアートを飾るのはなぜ? マネックスグループの狙い


かつては、自身も写真を通して創作活動を行なっていた松本さん。これほどまでにアートへの造詣が深いことで、アーティストになるという道は考えなかったのだろうか。

「昔はアートっていうと、絵画や彫刻が上手な人、ルネサンス期のミケランジェロのような人がやるものでした。でもコンテンポラリーアートは、この人上手なの(?)って思うものもあるじゃないですか。そこには鑑賞者との駆け引きややりとりがある。それは必ずしも美術的な上手さではありません。作品のコンセプトでお互いに引っ掻きあいをすることで、アートになったりもします。

学生時代の私は、うぶでそういうことを知らず、上手に写真を撮ろうという立場でした。でも、そんなに上手に撮れない。だからあまり面白くない。それで、その道には行きませんでした。でも、自分がつくるかつくらないにかかわらず、避けて通れないのがアートなんです。自分が感じるか感じないかにかかわらず、人間がいるところにはアートがある」

人間社会があれば、必ず存在するものがあると、松本さんは言う。

「例えば、周りから左利きの人がいなくなったら、変な感じがするでしょう。アートも同じで、アートがあっても気がついたり気がつかなかったりだけど、アートがないと、変な感じがする。音楽もそう。音楽を、意識して聴いていない人も大勢います。でも、なくなるとすごい嫌な感じがすると思うんです。

それらはみんな、社会のなかで必要なものとして共存してきたからなんです。アートを、オフィスに置こうとか、観に行こうとか、人に押し付ける気はありません。でも、まったく音楽のない社会はすごく居心地が悪いけれど、アートが会社のどこかにあると、たぶん居心地がいい。二酸化炭素や窒素と同じで、それがないと死んでしまうんです」

マネックスの社内にはGALAXYの他にも、過去のAIO受賞者の作品があちこちに展示されている。初めて訪れた時、僕は宝探しでもしているような気分になった。次はどんな作品が現れるのか、ワクワクしてしまうのだ。


(写真左)ART IN THE OFFICE 2014 川内理香子/(写真右)ART IN THE OFFICE 2018 金子未弥

それらのアート作品は、無機質な会議室という空間のなかでは異彩を放っている。「違和感」といっても差し支えないだろう。だが、その違和感こそが、松本さんがアートをオフィスに置く理由ともなっている。

「AIOをやってみると、いいことがあります。多様性を認める文化構造と、アートがある構造って似ている感じがするんです。アート、アーティストって、50人いる学校のクラスでいえば、だいたい変なやつなんです。でも、そういう存在があることで、社会って多様なんだということが、ナチュラルに感じられるんです。

マネックスはダイバーシティを推進していますが、そのこととオフィスのなかでアートを展開してきたことは、とても相性がいいと思っています。『なに、アートなんて!』と言う社員も、昔はたくさんいましたが、いまは慣れてきて、ずいぶん減ってきました。社内でダイバーシティが当たり前になってきた証明ですね」

ダイバーシティ、多様性を語る松本さんだが、キャリアを辿っていくと、その選択はそれこそ意外性抜群だ。松本さんの人生そのものが、多様性を象徴している気さえする。それを松本さんに伝えると、本人は笑って否定したが、こう続けた。

「私は音楽も雑食で、いろいろなもの聴いてきました。アートもいろいろなものを観てきました。人でも、幅広い人たちと付き合ってきて、それ以外でも多様なものと接してきました。

自分の選択については、どこがいいとか、どう言う基準で選んだとかは言えません。でも、多くのものに接してくると、ぽろっと、これがいいねっていうものが出てくるんです。

私の場合は、自分のキャリアのなかで、これまでもいろいろな判断をしてきて、それが周りからは驚かれることもままありました。でも、自分的には至極ナチュラル。ひとつのものを見てきたうえで決めているわけではなく、多様なものを見てきたなかでぽろっと出てくるんです」
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文=鍵和田昇

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