多くの企業で当たり前とされている、目標を定め、ノルマを決め、期限までにやり切る。こうしたやり方を一切やめる、「しない経営」を展開し、4000億円空白市場を開拓、10期連続最高益を果たした企業がある。
作業服、特に建設作業や工場作業向けウェアの専門店として、日本最大手の市場を誇るワークマンだ。
ワークマンは30年以上、「個人向け作業服」というニッチなジャンルで独占市場を築いてきた。だが近年、2018年に新規参入した一般向けアウトドアウェアを扱う「WORKMAN Plus(ワークマンプラス)」がヒットし、昨年には、国内の同社系列店舗数がユニクロを超えるなど、飛躍的な成長を遂げている。
こうした今日のワークマン躍進の仕掛け人となったのが、昨年10月に『ワークマン式「しない経営」──4000億円の空白市場を切り拓いた秘密』(ダイヤモンド社刊)を上梓した同社の専務取締役、土屋哲雄氏だ。土屋氏は、商社で30年以上の経歴を持ち、開発した中国語ワープロが中国でシェアナンバーワンを獲得するなど、凄腕の商社マンとしてビジネスの第一線で活躍してきた。
時代の流れを常に意識し、スピード重視で駆け抜けてきた商社時代を経て、どのようにして「しない経営」を展開し、ワークマンを飛躍させることができたのか。ワークマン躍進までのストーリーや経営戦略について聞いた。
究極の「深掘り型」企業にやってきた「横断型」商社マン
「私はワークマンの社員を心から尊敬しています」。取材中、土屋氏は何度もそう繰り返した。
作業服・作業用品日本最大手ワークマン専務取締役 土屋哲雄氏
大学卒業後、三井物産に入社し、35歳で企業内ベンチャーを立ち上げる。「肉眼では見えない小さな文字が打てる専用プリンタ」や「スポーツフォームの分析装置」など、唯一無二の画期的な製品を隙間市場に投入し、数々のヒットを生み出してきた。
そんな華々しいキャリアを経て、還暦間近の2012年にワークマンに入社。
30年以上、スピード重視の「横断型」ビジネスで勝負をしてきた土屋氏とは対照的に、ワークマンは32年間、作業服一筋でやってきた、「深掘り型」経営の会社だった。
一見、混じり合うことは困難に思えるワークマンと土屋氏だが、実はこの異色の組み合わせが千載一遇となったのだ。