脱炭素化で再注目の「水素」 なぜいま期待されるのか

トヨタは水素燃料自動車の開発で世界をリードしている(Getty Images)


良い知らせは、岩塩空洞や岩石洞窟のような場所であれば、大規模かつ低コストで長期間の貯蔵が可能だということ。しかし、このような場所は地理的に限られています。

ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンスによると、「今日の世界経済において、水素が天然ガスに取って代わるとしたら、同じレベルのエネルギーセキュリティの実現には、2050年までに6370億ドルのコストをかけて3~4倍の貯蔵インフラを建設する必要がある」とされています。大量の水素を貯蔵することは壮大な課題のひとつであり、堅牢な水素経済を実現するための必要条件でもあります。

いま、改めて水素への期待が高まっている理由


これらの課題があってもなお、水素は投資価値が大きいと言えるでしょう。電気はいまだ人為的な炭素排出量の3分の1にしか貢献できておらず、水素は私たちの経済の他の分野の炭素排出量削減に向けた最良の手段のひとつです。気候変動の緩和は、私たちが持ちうる策のすべてを講じるべき非常に重要な問題です。

再生可能電力のコストが劇的に下がったため、今後10年の間に、競争力のある価格で二酸化炭素の排出なしに水素を生産できる望みも出てきました。水素はすでに工業原料として使用されているため、「二酸化炭素を一切発生させずに水素を生産する」という課題を解決するだけでも、可能性が拡大するでしょう。

石油化学プラントなど水素が使い捨てされる場所では、近くで生産されたゼロCO2の水素を使うことで、輸送、供給、貯蔵の必要性を減らすことができます。そして、産業界における既存のグレー水素をグリーン水素に替えるだけで、年間8億トンの二酸化炭素を削減できます。近い将来の部分的脱炭素化の実現に向けた水素の幅広い普及については、現在のガスパイプラインのインフラを大きく変えることなく、天然ガスに水素を最大20%まで混合して供給することが可能です。これらは、滑り出しとしては良いものの、目指すべきゴールはさらに先にあることは明らかです。

政策立案者や民間企業は、水素の輸送、供給、貯蔵における課題を軽視してはなりません。このような取り組みは幅広い研究開発に及んでいます。

例えば、新しい水素貯蔵媒体として有望な金属水素化物と呼ばれる素材の種類に関する研究や、輸送しやすいよう水素をアンモニアまたはメタノールに変換し、その誘導体分子を燃料として使用したり、顧客の希望する場所で水素に戻したりする取り組みなどです。また、水素の分散生産を通じ、長距離輸送の必要性を根本的になくし、難題を一刀両断するような取り組みも存在します。

水素が私たちの経済全体の脱炭素化において重要な役割を果たすためには、水素の供給および流通チェーン全体に及ぶイノベーションが不可欠なのです。


(この記事は、世界経済フォーラムのAgendaから転載したものです)

連載:世界が直面する課題の解決方法
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文=Tony Pan, Chief Executive Officer, Modern Electron

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