圧縮も、液体水素の貯蔵も、ガスの圧縮または冷却により余分なエネルギーがかかります。さらに、どちらの方法も特殊な機器を必要とし、導入にはイニシャルコストがかかります。実際に、水素駆動自動車の幅広い普及を妨げてきたのも、電気自動車用急速充電ステーションの最大10倍かかる水素燃料補給ステーションのコストなのです。
3. 水素パイプライン
容器を用いず、パイプラインで水素を供給することもできます。長期的にはこれが最も安価な方法ですが、成熟した水素パイプラインシステムを導入するコストは、本来ならば多くのユーザーが負担すべきところ、現状、水素ユーザーがまだ少数であるために、各ユーザーが高額なコストを負担しなければならなくなります。
専用の水素流通パイプラインシステムを構築するには、数兆ドルの費用がかかる可能性があります。例えば、ドイツのパイプライン事業者グループは、天然ガスパイプラインを改造し、2030年までに1200km長の水素グリッドを6億6000万ユーロをかけて建設する計画を発表しました。これは、郊外のガスパイプラインの設置するのに、1マイルあたり100万ドルの費用がかかるという経験則とも一致します。しかし、ドイツだけでも、天然ガスのパイプライン網の全長が53万kmもあることを考えると、1200kmは控えめな数字です。アメリカには、計300万マイル長の輸送および供給用ガスパイプがあり、各家庭までガスを届けています。
模索されているひとつの近道は、天然ガスパイプラインを純水素の供給向けに改造することです。しかし、水素は性質上、鉄、鋼、溶接部などパイプラインを構成する多くの要素に反応し、脆化させてしまいます。さらに、最小の分子である水素は通常のパイプから漏れてしまうため、損失や安全上の危険が生じます。そして、水素を圧縮してパイプラインで輸送するための手頃な価格の機械も不足している状況です。これらの根本的な問題を解決するための取り組みが進められています。
水素の研究開発への世界的な公共投資が再び増加傾向に(イメージ: IEA)
4. 長期間の水素の貯蔵
輸送の問題を差し置くとして、もし水素を長期間貯蔵できれば、状況の改善は容易になるのでしょうか?