そうした活動のなかで、世論の風向きは変わったようで、グラフィティアートを消そうとした州知事は退任に追い込まれる。
この施策でナイキが得たものは、売上を上げ、NIKE.COMへのアクセス者数を増やすという直接的な結果だけではない。いわば、サンパウロの「ストリート・アートシーンの一部になった」ということであり、ブランド価値のアップという点でも大きな成果を挙げることができたのだ。
「悪者扱い」するものから新しい発想が
さて、この事例から、われわれが学び得るものは何だろうか? それは、常識的な判断やビジネスの定型から抜け出して、部下や子供たちが好きなものに眉を顰めず、積極的に活用してみるということだろう。
部下のことを思い浮かべてみよう。ゲーム好き、カラオケ好き、JPOP好き、ダンス好き、あるいはテニス好き、野球好き、バイク好き、はたまた投資好き、ビットコイン好きなど、さまざまな趣味を持っている顔が思い浮かぶだろう。
あなた自身にとっては、「なんであんなものに熱中するんだろう?」と理解に苦しむ対象かもしれない。
それでも、彼ら彼女らの興味の対象になっているものを、機会があったら仕事に活かす方策を模索してみるのも悪くはない。
「君の好きなゲームは、どんなところが面白いのか、こんど僕にも教えてくれないか?」とか、「カラオケの楽しさを分析して、今度の企画に盛り込むことを考えてみたらどうだろう」とか、そんなひと言をかけてみるだけでも、思わぬ展開が見られるかもしれない。
あるいは、子供が好きなアニメの背景となる時代設定は、日本史の勉強につながるかもしれない。洋楽好きな子供だったら、その歌詞を見せてもらって、英語文法の話につなげられるかもしれない。
ふだんは「悪者扱い」してしまうような、彼ら彼女らの好きなものに、こちらから近づいてみることをお勧めしたい。そこから思いもよらぬ新しい発想が生まれるかもしれないのだ。
連載:先進事例に学ぶ広告コミュニケーションのいま
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