見落とされてきた健康リスクを未然に回避
やはり気になるのは各機能の精度と信頼性だ。アップルは以前、医師が検査に使う医療用の心電図計とApple Watchの心電図アプリを用意し、米国で約600人の被験者を対象に、心房細動と洞調律を分類できる精度を比較する臨床実験を実施。その結果として、「87.8%を占めた分類可能な記録の中で、心房細動は98.3%の高い感度で計測。洞調律については99.6%の特異性(=計測の正確さ)を示した」と、精度の高さをアピールしている。
不規則な心拍の通知機能については、アップルと米スタンフォード大学医学部が共同で実施する研究プロジェクト「Apple Heart Study」の成果が2019年に報告されている。レポートでは、全米で40万人が参加した臨床実験の参加者のうち0.5%が不規則な心拍数の通知を受けて、その後に医師に有意義なアドバイスを求めることができたとして、一定の成果が認められたことを紹介した。
もちろん機能の精度はできる限り高いことが望ましいが、それよりも、Apple Watchのような一般に普及するウェアラブルデバイスで心疾患の兆候を「誰でも簡単に」計測できることで、これまで見落とされてきた健康リスクを未然に防げるという意義がとても大きい。
Apple Watchを使って誰でも簡単に心臓の健康状態が日常生活の中で把握できるようになれば、健康リスクの未然回避につながるはずだ。
データが医療の現場でもいかされるように
今後、不規則な心拍の通知機能と心電図アプリが正しく活用されるためには、当然Apple Watchユーザーへの啓蒙も大事だが、医療の現場がこれをどう活かせるのかにも注目したい。
北米や欧州、そしてアジア地域でも日本より早くこれらの機能が提供されている国では、Apple Watchのユーザーが心電図のPDFファイルをかかりつけの医師に持ち込み、健康相談や続く高度な診断・治療を受けるための材料として活用されるケースがあるという。
あるいはApple Watchによる心電図ファイルを健康相談に採り入れていることを前面に掲げる医療機関があれば、ユーザーにとっては来院を促される契機にもなるだろう。メール等を使って、心電図のPDFファイルを医師や医療機関に送ることまでできれば、オンライン遠隔診療の新たな道筋も見えてくる。
アップルのチーフオペレーティングオフィサーであるジェフ・ウィリアムズ氏は、「これらの心臓に関する機能のリリースにより、Apple Watchが人々の健康の自己管理を実現するために必要な、より多くの情報をもたらす第一歩を踏み出した」とコメントしている。心臓の病は「自分とは無縁だから」と、ふたつの機能を使わないのはいかにも勿体ない。Apple Watchのバッテリー消費に及ぶ影響も軽微と言われる機能なので、老若男女を問わず、心疾患の予防壁としてぜひ活用したい。
ただ、一方でApple Watchの新機能を過信することも避けなければならない。たとえ通知が届かなかったとしても、体調が悪い時には自身の判断で病院を訪ね、医師の診察を受けることを優先すべきだ。
連載:デジタル・トレンド・ハンズオン
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