飴ムチのバランス
BSフジで放送中の『小山薫堂 東京会議』にて、新しい企画が始まった。その名も「リモートシェフ」(狐野さんも出演)。ひとりのゲストに、有名シェフ2人がリモートでそれぞれの料理を伝授。「制限時間は30分。モニター越しの素人においしい料理をつくらせることができるのは果たしてどちらか?」という、料理対決番組である。
実はこの「リモートシェフ」、10年前に事務所のスタッフと一緒に新しいテレビ番組の企画として考えたもの。素人につくらせることが前提なので、視聴者は『料理の鉄人』よりも実用的なレシピを知ることができる。「ぜひ海外で放送を!」と願った僕は、ハリウッドのテレビ制作会社まで売り込みに行ったのだが、紆余曲折あってあえなくボツに。
ところが、時代が追いついたと言おうか、コロナ禍によりビデオ会議システムを使った交流が当たり前になったいま、実現したわけだ。
2回のパイロット版放送で、料理人が素人に言葉だけで料理を教えるのを間近で見て、人は褒められると作業がやりやすくなるんだなとあらためて感じた。やはり教え上手は褒め上手、なのだろう。とはいえ、飴ムチのバランスも教育や指導には不可欠で、例えばblankのゴローの場合は褒めすぎると木に登ってしまうから、オーナーとしてその塩梅をいつも思案している。
褒めること、褒められることについて考えるとき、心に浮かぶ至言がある。京都の洋食屋「グリルフレンチ」の主人から言われた「褒められても7割、叱られても7割」だ。叱られたときに100%それを受け入れてへこむのではなく、3割は聞き流す。褒められたときも礼は言いつつ、心の中では3割減で受け止める。いい気にならずに、常に謙虚で。それが、僕自身の戒めともなっている。
今月の一皿
「フロマージュ クレーム」。塩気と甘味のバランスが秀逸。2mm程度の薄さがまた絶妙な食感をもたらす。
blank
都内某所、50人限定の会員制ビストロ「blank」。筆者にとっては「緩いジェントルマンズクラブ」のような、気の置けない仲間と集まる秘密基地。