ビジネス

2020.12.10

学生イノベーターの開発に密着 「音力発電」で世界に挑むまで|前編

Red Bull Basementの日本代表に選出されたチーム「hummingbird」。右から順に、木村拓仁、袴谷優介、須田隆太朗、青山奈津美


神保のこの言葉を受け、4人は再び動き出す。

須田は「30年後とかに実現することを考えているので、本番は将来のことを話す場にしようと思います。スマホを十分に充電できるようにするには今後どんな技術が必要なのか、いまある課題をちゃんと把握していることを示した上で、この先をいかに想起させるかを考えたい」と語り、袴谷と共にプレゼン原稿の修正に取り掛かった。

本番まで残り2週間。ようやく案がまとまったように見えたのだが──。


プレゼンのストーリーを組み立てるのは袴谷の役割。その内容について神保に相談していた

本当にやりたいことは何?


神保の後に技術メンタリングを行うのは、北原だ。

「アイデアの面白さより、結局みんなが嘘なく何をやりたいかを見ているので、そこを意識して話してください」

先ほど神保に対して発表したばかりの「スマホ充電案」を紹介するチーム。しかし、北原の反応は厳しいものだった。

「これをやった時にみんなは楽しいの? こういうことをやるために結集したの? 本当にスマホの1%2%を充電するために、みんな何年もかけて開発したいの?」

そこで須田が口火を切る。

「日常に溢れる生活音や騒音が邪魔者じゃなくなるような、ネガティブなものをポジティブに変えてハッピーな感情を生み出す開発をしたい思いは変わらないです。それをどのように見せたら納得してもらえるかを考えたときに、スマホの充電がなくなるという多くの人が困る場面に注目しました。でも、スマホの充電をなぜやりたいのか? と言われるとわからない」

北原はメンタリングを行う際に、学生たち自らの意識を引き出すよう心がける。これまでになかったサービスを作るということはつまり、正解がないことだ。だからこそ「自分が何をしたいか」「製品を生み出すために人生をかけてもいい」と思う、その原体験を掘り下げるようにしている。

hummingbird
現状の「hummingbird」の音力発電の技術を試す須田

「スマホの充電は明らかに手段だよね。この技術ができたとして、次のステップで何をするのか。それが本当にやりたいことに向いていないといけないよね」と北原は言う。

実はこの前週、北原と共にチームは「音力発電を開発した先に、どのような世界を作りたいのか」というビジョンを掘り下げていた。須田が本当に成し遂げたいことは「テクノロジーで五感にアクセスすることで、もっと豊かなコミュニケーションが取れる世界の実現」だと打ち明けたのだった。

さらに「一旦ビジネスの実現性を考えずに、須田君が1番やりたいことは何?」と北原が聞くと、音力発電をベースとしたノイズキャンセリングデバイスの開発に興味があるようだった。この開発はビジョンにも繋がると考え、北原は納得していた。しかしアイデアは、音力で発電して充電するというビジョンの前段階を目指すものに戻ってしまっていた。なぜだろうか。
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文=督あかり、河村優 写真=Christian Tartarello

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