メンターの一人、トーチリレー代表の神保拓也は笑顔で彼らを迎えた。神保は、ファーストリテイリングで2018年に上席執行役員に最年少で就任し、今年独立したばかりの起業家でもある。
トーチリレー代表 神保拓也
「私はこれまでの人生では、やるべきことや求められたことを一心不乱にやってきました。だけど一度きりの人生なので、自分の好きな“心に火をつけること”を仕事にしたいと起業しました。教え、導くのではなく、皆さんと伴走して行けたら幸せです」
もう一人は、マクアケのR&Dプロデューサー/クリエイティブディレクター北原成憲が技術メンターを務める。北原は、マクアケでさまざまな企業の研究開発技術からイノベーティブな製品・サービスのプロデュースを手がけており、過去2年にわたりRed Bull Basementのメンターを務めてきた。
マクアケ R&Dプロデューサー/クリエイティブディレクター北原成憲
それから週1回、夜にメンター日が設けられ、彼らの試行錯誤が始まった。当初、神保は「プロジェクト名やコンセプトがすでに完成していて、感銘を受けた。とっても面白い試みになる」と語っていたが、その道のりは想像よりも遠回りだった。
「日常の場面」をイメージできるか
「hummingbird」のアイデアは完成していたかのように思えたが、技術面での壁が、ブラッシュアップして企画に落とし込む妨げとなっていた。現時点の技術では、音を変換してつくれる電力量は微々たるものであり、使い道がなかなか思いつかない。
学生たちは、最初にこんなアイデアを出した。音力で光る傘を作る、工事現場の騒音を音楽に変える、災害時に役立つ非常電源を作る......。
神保は、「これはこれで学生らしいユニークなアイデアだと思うんですが、実用性は考えられていないものです。彼らはまだ一からビジネスモデルを考える経験がないため、どうしても話題性がありそうな案や、社会貢献など大きな話題に惹かれがちです」と指摘する。
しかし「非日常の場面」で使われることを想定して入り口を設定すると、かえってユーザーの日常生活には入り込みにくくなってしまう。そこで神保はいま一度、「あと少し電力があったらいいのに」と感じる日常の場面を考えてみることを学生たちに提案した。
「日常をイメージできなければビジネスとして成り立たない」と指摘する神保 学生たちの思いをいかに形にするか、助言していた
1週間後、この宿題に対して彼らが出した案は、自分の声を使って微力な電力を生み出し、スマホを充電する装置だった。しかし、彼らが持つ技術力ではスマホを1%充電するのに1000時間も叫び続けなくてはならない。
「そのくらいの充電効果だと、観客を驚かすことはできないよね。このチームの強みは、須田さんの実体験に基づいた説得力のあるストーリーが開発の動機になっていることだから、ストーリードリブンでアプローチするべきだと思う」