ビジネス

2020.12.10 12:00

学生イノベーターの開発に密着 「音力発電」で世界に挑むまで|前編

Red Bull Basementの日本代表に選出されたチーム「hummingbird」。右から順に、木村拓仁、袴谷優介、須田隆太朗、青山奈津美


メンターの一人、トーチリレー代表の神保拓也は笑顔で彼らを迎えた。神保は、ファーストリテイリングで2018年に上席執行役員に最年少で就任し、今年独立したばかりの起業家でもある。
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トーチリレー神保代表
トーチリレー代表 神保拓也

「私はこれまでの人生では、やるべきことや求められたことを一心不乱にやってきました。だけど一度きりの人生なので、自分の好きな“心に火をつけること”を仕事にしたいと起業しました。教え、導くのではなく、皆さんと伴走して行けたら幸せです」

もう一人は、マクアケのR&Dプロデューサー/クリエイティブディレクター北原成憲が技術メンターを務める。北原は、マクアケでさまざまな企業の研究開発技術からイノベーティブな製品・サービスのプロデュースを手がけており、過去2年にわたりRed Bull Basementのメンターを務めてきた。

マクアケ 北原成憲
マクアケ R&Dプロデューサー/クリエイティブディレクター北原成憲
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それから週1回、夜にメンター日が設けられ、彼らの試行錯誤が始まった。当初、神保は「プロジェクト名やコンセプトがすでに完成していて、感銘を受けた。とっても面白い試みになる」と語っていたが、その道のりは想像よりも遠回りだった。

「日常の場面」をイメージできるか


「hummingbird」のアイデアは完成していたかのように思えたが、技術面での壁が、ブラッシュアップして企画に落とし込む妨げとなっていた。現時点の技術では、音を変換してつくれる電力量は微々たるものであり、使い道がなかなか思いつかない。

学生たちは、最初にこんなアイデアを出した。音力で光る傘を作る、工事現場の騒音を音楽に変える、災害時に役立つ非常電源を作る......。

神保は、「これはこれで学生らしいユニークなアイデアだと思うんですが、実用性は考えられていないものです。彼らはまだ一からビジネスモデルを考える経験がないため、どうしても話題性がありそうな案や、社会貢献など大きな話題に惹かれがちです」と指摘する。

しかし「非日常の場面」で使われることを想定して入り口を設定すると、かえってユーザーの日常生活には入り込みにくくなってしまう。そこで神保はいま一度、「あと少し電力があったらいいのに」と感じる日常の場面を考えてみることを学生たちに提案した。


「日常をイメージできなければビジネスとして成り立たない」と指摘する神保 学生たちの思いをいかに形にするか、助言していた

1週間後、この宿題に対して彼らが出した案は、自分の声を使って微力な電力を生み出し、スマホを充電する装置だった。しかし、彼らが持つ技術力ではスマホを1%充電するのに1000時間も叫び続けなくてはならない。

「そのくらいの充電効果だと、観客を驚かすことはできないよね。このチームの強みは、須田さんの実体験に基づいた説得力のあるストーリーが開発の動機になっていることだから、ストーリードリブンでアプローチするべきだと思う」
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文=督あかり、河村優 写真=Christian Tartarello

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