──今後、ますます民営化していく宇宙開発に対しては、どんなことを感じていますか?
宇宙は我々が普段体験できない空間概念や景色が広がっている世界です。そのまったく違う世界に想いを馳せることによって、新しい視点や新しい情感を呼び起こすことができる。今後、宇宙開発が民営化していくことによって、その部分がいっそう素直にデザインされていくと思います。
つまり宇宙開発は今、「あなたも新世界に行くことが可能になりますよ」「かっこいい宇宙船に乗って、こんな快適な宇宙の旅ができますよ」と、興行をしている状況だと思います。
有人小惑星探査船のデザインスケッチ。(c)2012 Shunji Yamanaka
──より多くの人たちに向けて、宇宙を演出しているんですね。
そうです。それは必要なファクターですから。と同時に人類にとって宇宙開発は、本質的には先端技術の実験場でもあるはずです。ただ、現実には宇宙空間ではオペレーションの確実性が要求されるので、人と人工物の関わり方においての最先端を試すことは早々できるものではありません。そういったなかでもボタンやダイヤルを廃止し、全面的にタッチスクリーンを採用したクルードラゴンのインターフェイスはとても挑戦的でしたね。そういう積み重ねできると、新しい技術思想を育むと思います。
宇宙を実験場に、未来のアイデアを提示する
──新しい技術思想というと、有人小惑星探査ロケットのデザインもそうですが、山中さんは様々な研究者や企業と連携しながら、先端技術を具現化するプロトタイプを制作し、発表されてきました。
はい、なかでも近年は私が教授を務めている東京大学生産技術研究所では3Dプリンタを社会に実装していくことの一環として、義肢装具士や義足メーカー、スポーツ選手たちとともに義足プロジェクトに取り組んできました。
──なぜ義足だったのでしょう?
ある日、映像で義足のアスリートの走りを見たとき、人と人工物の究極の関係、機能美の一つがスポーツ用義足だと思った瞬間があったんです。その後、実際に選手たちの義足を見たところ、工業製品としてはまだまだ未完成なものだったので、研究として始めてみました。
陸上競技用義足「RAMI」のスケッチ。(c)2016 Shunji Yamanaka
──義足をデザインする上で3Dプリンターにフォーカスした理由とは?
3Dプリンターが登場した際、製造の現場に革命を起こすと言われてきましたが、実際はそのほとんどが動きのない小さなプロダクトの範囲に収まりがちでした。もちろん模型などを作る際にはとても便利なものなので、デザイナーにとって3Dプリンターは身近な存在ですが、私たちの生活にはなかなか届いていないでしょう。
その現状を見つめながら、何か可能性はないかと考えたときに、3Dプリンターの特徴のひとつ「マス・カスタマイゼーション」に可能性を感じたんです。つまり一人ひとりにフィットするものを作る、それも低コストでというときに、3Dプリンターの生産システムには大きな可能性がありました。
レーザー焼結方式のAM造形機で製作された陸上競技用義足「Rami」。(c)2016 Yasushi Kato