テクノロジー

2020.12.12 13:00

未踏領域のデザイン。宇宙は私たちに新しい視座を与えてくれる

(c)2020 Shunji Yamanaka

宇宙技術と異分野が結びつくと、思わぬイノベーションが起こる。それを目の当たりにしたひとつが、新型宇宙船クルードラゴンではないだろうか。

米SpaceX社が自社で開発したその宇宙船は、新たな時代の幕開けを感じさせた。今後、ますます加速していく宇宙開発の可能性について、人と人工物のあらゆる関わりを設計してきたデザインエンジニアであり、過去に有人小惑星探査船を自主的にデザイン提案した経験を持つ、山中俊治さんに伺った。

探査船スケッチ
山中さんが過去、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)で研究してきた有人小惑星探査船について、その全体行程を図式化したもの。(c)2012 Shunji Yamanaka

デザインによって未来を提示する


──アメリカはクルードラゴンによって9年ぶりに有人宇宙飛行を再開させました。野口聡一宇宙飛行士もまもなく搭乗しますが、率直にこの事実についていかがでしょう。

日頃からデザイナーとして"宇宙開発の分野にデザインが介入するということはどういうことか?"について考えてきましたが、クルードラゴンに関して感じていることは、色彩にはじまり、質感や形状も可能な限り丁寧にデザインが施されているということ。

流体力学的な機能を重視した設計ながら、例えば4つのスラスター周りの、まるでスポーツカーのような曲面処理などは、カーデザイナーにとっては手慣れた手法でもあります。つまりそれはスタイリングデザインとエンジニアの深い協働がなければ実現できるものではありません。

クルードラゴンの写真
米SpaceX社のクルードラゴン(右)と、それを打ち上げるファルコン9ロケット(左)(c)SpaceX

SpaceXのブースター着陸
打ち上げのシーンのように見えるが、実際は逆噴射での垂直着陸。(c)NASA

──おっしゃるようにSpaceX社は機能や仕組みをつくるエンジニアリングに加えて、美的価値の重要性をクルードラゴンで示したように思います。人々の感性を刺激するデザイン性は、SF映画さながらで本当にワクワクしました。

クルードラゴンが国際宇宙ステーション(ISS)にドッキングした写真を見た際、私は映画『2001年宇宙の旅』を思い出しました。イーロン・マスク氏(SpaceX CEO)の活動を見ながらいつも思うことは、ものの作り方がとてもドリーミーだということ。例えばSpaceX社のロケットが打ち上がった後、その一部であるブースターが地球に帰還しましたけれど、目標ゾーンに逆噴射で垂直着陸ですよ。

──まるでCGか逆再生を見ているかのようなシーンで、ちょっと感動しました。

ええ、みんな感動していましたが、実際に逆噴射で垂直着陸する必要はあったのか? を問うと、議論の余地があります(笑)。

ほかに彼が作っているものにテスラという有名な電気自動車がありますが、現物を見てみると、必ずしも効率のいい車の作り方をしているわけではないんです。例えばドアハンドルひとつとってもプシュッと押すと、ボディからドアハンドルが登場しますが、そんなギミックは本来必要ないもの。素直にドアハンドルがついているほうが便利に決まっているわけですから。

でも、あえて彼はそれをデザインする。そうすることで「これが未来なんだ」と、人々に提示するわけです。このやり方はイーロン・マスク氏のもの作りにおいて徹底していると思いますし、そのうえで宇宙船に本格的な工業デザインの手法を持ち込んだという意味においても、SpaceX社のインパクトは大きいと思います。

SpaceXの写真
(c)SpaceX
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取材・文=水島七恵

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