──確かに足の状態や形は、一人ひとり違うものです。
まさに義足は義肢装具士が一つ一つ丁寧に調整しないと使えません。それには時間もお金もかかる。そこで生産技術研究所は、長年培われてきた義肢装具士のノウハウを取り入れながら、3Dプリンターを活用して人それぞれの足に即した義足をたくさん作ろうというアプローチをしました。3Dスキャンした足のデータからフィットするソケットを自動作成するCADシステムがあれば、時間とお金を大幅に節約することができますから。
今回は義足プロジェクトとなりましたが、この一人ひとりにフィットするものづくりの探求というのは、私たち自身がなんとなくこれでいいと選択してしまっている生活を変えるきっかけにもなります。
──なんとなく選択している生活とは?
私たちは洋服でも家具でも市販品を買うときというのは、ある程度の幅のあるサイズのなかから、これが自分に合うと感じるサイズ感のものを選んでいます。それは言い換えると、オーダーメイドをしない限りは自分にジャストフィットするものは存在しない社会ということでもあります。という視点に立ったときに、宇宙という環境で実験できることはたくさんあると思うんです。
例えば宇宙機は量産品には決してならないので、その宇宙機に搭乗する人間の身体にとことんフィットする椅子を作るとか、何かそういう挑戦もできると思うんです。私自身、そういうデザインをやってみたいですね(笑)。
有人小惑星探査船の居住区のスケッチ。居室は全部で5つ。中央に食堂があり、周囲にラボ、寝室、ジム、与圧室を配置。至る所に「手すり」があり、ディスプレイなどが、その手すりに細いアームで柔らかく固定されている。(c)2012 Shunji Yamanaka
──ぜひやってください(笑)
ひとつずつ未来の解決策となるアイデアを自由に提示していく。宇宙がよりそうした実験場になれたら、おもしろいと思います。
山中俊治 : デザインエンジニア 1982年東京大学工学部卒業後、日産自動車を経て、1987年フリーのデザイナーとして独立。1994年リーディング・エッジ・デザインを設立。2008~12年慶應義塾大学教授、2013年より東京大学教授。デザイナーとして腕時計から鉄道車両に至る幅広い工業製品をデザインする一方、技術者としてロボティクスや通信技術に関わる。近年は「美しい義足」や「生き物っぽいロボット」など、人とものの新しい関係を研究している。(Photo : Naomi Circus)
JAXA’s N0.81より転載。
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