失敗してもいい。とりあえずやってみる
──吉川さんのリーダーシップだったのですね。社内の雰囲気は、こうした「ぶっ飛んだ」取り組みに対して、最初から前向きだったのですか?
和田:いえ、ツアー企画を始めた当初は、ほぼ全員が大反対(笑)。「何をやっているんだ」と、受け入れがたい空気が強くありました。
三和交通は全送迎の約50%が無線配車と予約によるもので、リピーターのお客さまも多い。だからこそ、こうした奇抜な取り組みで会社のイメージに傷がつき、お客さまが離れていく恐怖心が大きかったのだと思います。
でも、いざ思い切ってやってみると、お客さまの間でも評判が良くポジティブな意見を多かった。また、SNSで話題になったり、メディア露出が増えたりしたことから、社内の理解も少しずつ広がって、いまでは「テレビで見たよ!」と乗務員から声をかけてもらうことも多くなりました。
小関:「失敗してもいい。とりあえずやってみる」。そんな吉川のチャレンジ精神に感化されて、最近では乗務員からの企画の発案も増えているんですよ。
例えば、有名な三億円事件の犯人の足取りルートを巡る「三億円事件ツアー」は、事件当時、実際に事情聴取を受けたことがある乗務員のアイデアで実現しましたし、新撰組ゆかりの地を巡る「THE 新撰組ツアー」は、歴史好きな乗務員が主体となって運行しています。
公式のSNSも、最初は広報部社員のみで運営していましたが、いまでは乗務員や役員も積極的に出演してくれるようになりました。ユニークな企画やSNS運用が、部署を超えた会社全体の風通しを良くするきっかけになっています。
和田:実は、ツアー企画のほとんどは赤字です(笑)。予約制のサービス企画では通常の運賃に加え指定料金をいただいたり、ツアー企画では運行台数を調整したり、さまざまな工夫はしていますが、やはり採算は取れません。
ですが、企画やSNSはすべて売り上げではなく、注目を浴びて「バズる」ことを目指しているので、利益がなくても取り組みを続けています。これからも、より多くの方に三和交通やそこで働くスタッフたちの姿を知っていただけたらと思っています。
──10月からタクシーによる飲食配送が全面解禁されるなど、コロナ禍をきっかけにタクシー業界も変わりつつあります。今後の展望について教えてください。
和田:このコロナ禍では、お使い代行サービスや、社員が抗体検査を実施した様子の動画をYouTubeで配信するなど、試行錯誤や変化がありました。さらにこれからは、自動運転やライドシェアサービスも増え、タクシー業界全体が大きな変革期を迎えているように感じます。
しかし、三和交通は、「人」がかかわることで生まれる付加価値はなくならないと考えます。普段の送迎での接客はもちろん、ワクワクするような企画や一緒に働きたい職場環境はやはり「人」があってこそ生まれるのだと。
その私たちならではの魅力を磨いて、これからもお客さまに選ばれるタクシー会社を目指していきたいと考えています。
(左から)広報部の和田茉璃奈さん、小関正和さん、乗務員の苅部俊哉さん