かつてバイクの死亡事故が発生したという坂道で噂される心霊現象を、不気味な笑みを浮かべながら語る男性。そんな彼自身も、普段は顧客を送迎するタクシー運転手だ。
心霊タクシー。怪談話ではお馴染みだが、タクシー会社としてはあまり定着されたくないイメージを逆に利用した夏の恒例企画がある。タクシー・ハイヤー営業を行う三和交通の「心霊スポット巡礼ツアー」だ。
抽選倍率41倍 大人気の「肝試し」
2015年から始まったこの企画は、過去に抽選倍率が41倍になったこともあるほどの人気を誇る。今年のツアーの申し込みは7月で既に終了しているが、新型コロナウイルスの影響がある中でも644件の応募があったという。他にも「SP風TAXI」や「忍者でタクシー」など、数々のユニークな企画を手掛けてきた三和交通の目玉企画だ。
6回目となる今年は、横浜・多魔(多摩)・凍京(東京)・不死身野(ふじみ野)の4エリアで計35ツアーを実施。ネットなどで話題の有名心霊スポットから、実際に三和交通の社員が心霊体験をした場所などを、運転手の案内とともに10箇所ほどを約3時間かけてタクシーで巡る。
「タクシー×肝試し」という話題性抜群の企画だが、本当に怖いのか。広報部の小関正和さんは参加者からの満足度も非常に高いと胸を張る。
「運転手が実際に恐怖体験を味わった心霊スポットを巡ることで、リアルな怖さを楽しんでいただいています。自分も心霊体験をしたいと、予定より長くスポットに居続けてしまうお客様も。リピーターも多いです」
自信満々な様子に、怪談話が苦手な怖がりの筆者もつい興味をそそられる。そこで今回、横浜エリアの「NIGHTMAREコース」を特別に体験させてもらった。恐怖度は星3つで巡礼スポットも少なめと、他のコースに比べて怖がりに優しいコースのようだが、果たしてどうなのか。案内してくれたのは、今年から心霊ツアーを担当する運転手の苅部俊哉さんだ。
参加前にはお清めの塩を配布
参加者はツアー開始前に、いかなる心霊現象があっても自己責任と記された誓約書にサインをする。手指の消毒を済ませて、マスクを着用。運転手からお浄めの塩を受け取り、タクシーに乗り込めば、心霊ツアーがスタートだ。
乗車の際に渡されるお清めの塩(撮影:大竹)
ツアー開始は20時。もちろんあたりはすっかり真っ暗だ。初めは車通りの多い横浜のハイウェイを安定した走行で進んでいく。運転しながら気さくに話しかけてくれるため、普通のドライブをしているような気分になる。が、和やかな会話に気を緩めている間に、タクシーは街灯のない小道へ。
苅部さんが急に声のトーンを下げて一言「普段はこの道は通らないんだけどね……」。お化け屋敷のスリルとは一味違うリアルな恐怖に、思わず息を呑む。