経済・社会

2020.07.28 07:00

【全文】オードリー・タン独占インタビュー「モチベーションは、楽しさの最適化」

台湾デジタル政策担当委員 オードリー・タン(Audrey Tang via flicker)


──日本ではSNS空間で、匿名での誹謗中傷が問題になっています。
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それは、返信コメント機能が問題だと思います。返信コメント機能があると、どうしても人はトローリングしたくなってしまうものです。

私は、世界で今必要なのは、噂よりも、真実をより早く拡散させることだと思います。基本的に、毎日何が起こったかのコミュニケーションを明確に、楽しく、面白くとっていれば、それはどんな偽情報やトローリングメッセージよりも拡散力があります。インタラクティブスペースにおいて返信ボタンを取り払うことは重要になります。また大事なのは、落ち着いたユーモラスな態度だと思います。若い人だけではなく、インターネットにおけるすべての人の心をつかむことができるでしょう。

──ありがとうございます。次に、あなた自身について聞かせてください。15歳で学校を辞めたときのエピソードをよくお話しされています。先生に学校に来なくていい、と言われたときの気持ちは、どのようなものでしたか?
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ある種、混じり合った気持ちでした。もちろん感謝の気持ちはありました。しかし同時に責任も感じました。学校にいれば、何を学ぶべきか、どのような進路をとるべきかについて、学校や教師に責任を押し付けられます。しかし、先生は「すべては君次第」と言ったのです。ですから、責任を感じました。私は自分の人生や、私がする決断に、基本的に責任を持つようになりました。感謝の気持ちと責任感と混ざった気持ちでしたね。

──あなた自身の将来に関してどう思いますか? まだ公の職でやることがたくさんあると思いますか? それとも別の道に進む可能性はありますか?

そうですね。現時点で、台湾の公共サービスは、とても革新的だと思います。総統杯ハッカソンでは、とても良いアイデアがたくさん出てきます。3分の1が、パブリック・セクターのイノベーターたちからのアイデアです。もちろん、ソーシャル・セクターからも、ビジネス・セクターからも出てきますが、3分の1がパブリック・セクターからです。それは、公務員たちが、多くの人が思うよりもずっと革新的であることを私に示しています。ですので、私はこれからも公共サービスのイノベーターとして働き続けることを幸せに思っています。

──台湾では、若い世代への教育に、よりデザイン思考やクリエイティブ思考が重視されているそうですね。若い人たちへのメッセージをお願いできますか?

私のメッセージは、「There is a crack in everything and that’s how the light gets in.(*6 すべての物にひびがある。そして、そこから光が入る)」ということです。世界は完璧ではありません。私たちの行動によって、生態系に害をもたらしていることはたくさんありますが、それが、私たちがここにいる理由です。これらの構造的な問題に、一緒に取り組むことができます。

それが、デザインや創造的思考があなた自身のためではなく、すべてのシステムに関することである理由です。自然のシステム、生態のシステム、人間のシステム、これらすべてがあなたへの応募者であり、これらの欠陥はあなたが貢献するための招待状です。

──最後の質問です。オードリーさんはとてもハードワーカーに見えます。特にパブリックなものごとに対して。そのパッションはどこから来るのでしょうか?

基本的には、楽しさのオプティマイズ(最適化)です。私の主な仕事は、すべての人に公的なものごとに参加してもらって、楽しいと感じてもらうことです。もし政治がつまらないと感じたら、人々は参加しない。他のことをします。でももし人々が、「政治って面白い」と感じたら。1922(台湾版CDCの無料電話相談)に電話して、「ねぇ、明日みんなでいじめられた小学生を元気づけるためにピンクのマスクをしてきたら?」と言って、次の日閣僚たちがつけてきたら、面白いですよね。人々はみんな元気づけられる。

私のモチベーションは、この共同創作精神からきていると思います。その楽しさって、一人でいる楽しさより、はるかに楽しい。コレクティブ・インテリジェンス(集団的知性)は個人的な楽しみより、ずっと楽しいものです。

(*6)「There is a crack in everything and that’s how the light gets in」:カナダのシンガーソングライター、詩人、小説家のレナード・コーエンの詩「Anthem」(1992年)の一節。

*取材にあたり参照した記事・動画:「Taiwan’s revolutionary hackers are forking the government」(By Kate O’Flaherty, 4 May 2018, Wired), 「The simple but ingenious system Taiwan uses to crowdsource its laws」(By Chris Horton, 21 August, 2018, MIT Technology Review), 「ホログラムで市民と対話!? 全世界が注目する台湾の“デジタル大臣”オードリー・タンが語るCovid-19対策と新しいデモクラシーの形」(Interviewed by Kei Wakabayashi, 14 April 2020, 黒鳥社),「台湾の若者が『現状維持』を望むワケ」(早川友久, 26 October 2018, Wedge Infinity), 「Taiwan:Digital Minister Audrey Tang」(Youtube : Asia Society NEW YORK, 21 September 2018)

編集=岩坪文子

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