総統杯ハッカソンでは、そのような事例に対して、3カ月のサンドボックス期間を与えます。アイデアを形にするための期間です。そして、市民が良いと思い、審査員が良いと思った5つのチームが選ばれます。受賞者には、総統自らがトロフィーを渡します。トロフィーは台湾の形をしていて、プロジェクターが内蔵されています。スイッチをオンにすると、総統があなたのアイデアを次の12カ月、政策にすると約束します。
彼らのアイデアは今、先住民の住む地域や離島などを含む100以上の地域で実現しています。実行するための十分な予算をつけています。これが、シビック・テクノロジーやソーシャル・イノベーションを実装する方法です。法律も変えていきます。
──参加しているのは、起業家ですか?
起業家です。しかし、私たちは、5つのチームの中に、ビジネス・アントレプレナー、ソーシャル・アントレプレナー、大学研究者、NGO、パブリック・アントレプレナーの人々がバランスよく選ばれるようにしています。パブリック・アントレプレナーとは、普通の公務員のことですが、革新的な人たちです。
──とても興味深いですね。ありがとうございます。さて、次は、分断とテクノロジーの話題についてお聞きしたいと思います。近ごろ世界で、特に民主主義の国々において深刻な問題となっています。最近、Humor over Rumor(*5)というプロジェクトを行っていますね。具体的には、どのような人がかかわり、どのように一緒に仕事をしているのですか?
各省庁に7人ほどのチームがあり、それぞれ異なる専門性をもっています。例えば、政策について詳しい人、政治的な状況分析ができる人、映画製作の知識がある人、ストーリーテリングのビジュアル化ができる人、コメディに詳しい人、などです。各省内にいる多様なメンバーのチームなので、チームにはシンプルなKPIがあります。デマがトレンドに入っている時、2時間以内に、2つの画像、200文字以内で、その噂よりも面白いものを作らなくてはいけない、というKPIです。
──面白いですね。中国当局による故意のデマによって被害を受けた経験はありますか? 台湾の人々はそれについて、どれくらい注意をしていますか。
そうですね。選挙期間中は多くのプロパガンダがあります。私はそれをもはや秘密活動とは呼びません。公然と行われているからです。例えば、こんなデマがありました。香港の人々は民主的な抗議活動者ではなく「警察を殺すために雇われた暴動者だ」というものです。写真も一緒についていました。もちろん、真実ではありません。写真は有名なロイターの記者によって撮影されたもので、本当の説明文は「群衆の中には若い抗議活動者がいた」というようなものでしたが、流布されたデマは、「この若者は暴動のために雇われ、そのお金でiPhoneを買い……」というようなとても悪意に満ちた文章でした。
そこで台湾ファクトチェッキングセンター(台湾メディア・ウォッチとクオリティ・ジャーナリズム協会によって共同設立された非営利団体。公共に関わる情報のファクトチェックを行うとともに、台湾のニュースの質、情報のエコシステムの向上を目指す)がその投稿の出どころを探ったところ、発信源は中国共産党(CCP)の中央法政委員会であることがわかりました。選挙中に、民心が対立するように煽っていたのです。
彼らは隠さず、露骨に行ってきます。対処方法は、国民に告知することです。このメッセージが中国共産党から発せられたものであることを、リンクをつけて発信します。削除することはありません。中国と同じになってしまいますから。削除はしませんが、「これはCCPにスポンサーされたものだ」という告知を国民に行います。
(*5)Humor over Rumor:タンが主導して始めた「噂よりもユーモアを」というプロジェクト。例えば、COVID-19流行時に、台湾ではマスクを大量生産しているために、原料不足になり、トイレット・ペーパーが不足するとのデマが流れた。それに対応して、チームは台湾の首相、蘇貞昌がお尻をふっているイラストに「お尻は一組しかない」というキャプションをつけたミームをリリースした。共に、トイレット・ペーパーの原材料のパルプは南アメリカからの輸入品であり、医療用マスクの製造には関係がないことを図示した。