ビジネス

2020.06.16

「野蛮人」から「紳士」へ 悪名高き投資ファンドの進化

KKR共同創業者 ヘンリー・クラビス(左)とジョージ・ロバーツ(右)


それから5年以内に、KKRの投資先企業は10億ドル近くを節約した。なかでも特筆すべきは、600万トンの廃棄物を削減し、1社で7億7500万ドルを節約した小売企業のダラー・ゼネラルだった。同社はまた、KKRに4.5倍のリターンをもたらし、金融危機の時代の最も成功した買収案件ともなった。

「20年前の私は、ESG(環境、社会、ガバナンス)などたいして信じていなかった。一番大事なのは会社のために大きな利益を生み出すことであり、そうすればすべての関係者が恩恵を受けるものと考えていた」と、クラビスは言う。「宗旨替えしたよ」。

投資先企業を支援することがKKRの最優先事項となった。そのために社内のコンサルティング部門である「KKRキャップストーン」が増員され、現在では66名のコンサルタントが成長プランやM&A、コスト削減などについて、投資先企業に助言している。またリスクを見抜こうと、KKRは世界的なマクロ経済や破壊的なテクノロジー、政治的変化などを研究するチームを立ち上げてきた。

KKRは信用事業にも積極進出し、今や660億ドルの信用ビジネスを展開する。18年はローン担保証券などの事業が赤字だったものの、与信管理と取引手数料で約4億ドルを稼ぎ出した。引受業務を開始したことは、もうひとつの金脈となった。投資先企業から204件の債務や株式発行を引き受けて、18年には6億3100万ドルの手数料を生み出した。

KKRの手数料収入全体を見れば、18年に前年比19%アップの18億ドルとなっている。そのうち10億ドル以上を占めるのが、いわゆる「取引・監視手数料」と呼ばれるもので、投資先企業への経営助言などに対して課される。

いかにも美談に聞こえたガードナー・デンバーの17年のIPOを思い出してほしい。KKRは同社に年平均340万ドルの取引・監視手数料を課していたのに加えて、IPOに際して1回限りの特別な手数料を1620万ドル徴収した。高額の手数料を取るということは、自社のパートナーに気前よく報酬を出せるということだ。昨年、KKRは1300人のスタッフに15億ドルもの報酬を支払った。
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文=アントワーヌ・ガラ 写真=佐々木 康 翻訳=町田敦夫 編集=岩坪文子

この記事は 「Forbes JAPAN 4月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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