ビジネス

2020.06.16

「野蛮人」から「紳士」へ 悪名高き投資ファンドの進化

KKR共同創業者 ヘンリー・クラビス(左)とジョージ・ロバーツ(右)


金融史を学んだ学生ならあんぐりと口を開けてしまうような発言かもしれないが、いまやその口を閉じてもいい。言うまでもなく、KKRは1970~80年代にレバレッジド・バイアウト(編集部注・買収先企業の資産または将来のキャッシュフローを担保に資金を調達して行う企業買収。LBOと略される)を知れ渡らせ、企業国家アメリカを征服するウォール街の顔となった会社だ。

RJRナビスコに対する250億ドルの買収劇を伝えたベストセラー本(編集部注:『野蛮な来訪者―RJRナビスコの陥落』邦訳:1990年、日本放送出版協会)が出て以降は、「バーバリアン(野蛮人)」という異名が知れ渡っている。課税逃れや、借入金を大胆に活用してRJR、Wometco Enterprises、ベアトリス・フーズといった大企業を呑み込んでいった手法を巡っては、米国議会でも厳しく指弾された。

それから30年が過ぎたいま、彼らは根源的な変化の縮図となっている。KKRはもはや排他的なパートナーシップではなく、株式を公開する会社(コーポレーション)だ。投資対象資産の半分とディールメーカーの過半数は米国外に存し、アジア地域において最大の成長を見込んでいる。投資対象企業をゲームの駒のように扱ったり、その経営陣を責めさいなんだりすることもなくなった。クラビスとロバーツ自身が世界に散らばる114の企業の経営に関与し、その最終責任を負っている。その売り上げは合わせて年間1230億ドル、従業員数は75万3000人に上る。

この「続編」においては、道徳観のない秘密主義の金融工学者の役回りを演じるのはヘッジファンドだ。KKRや、そのライバルであるブラックストーン、アポロ・グローバルなどに関して言えば、プライベート・エクイティが善玉の役割を果たす“パブリック”エクイティの時代に入っているのである。

この変革は必要から生じた。直近の5年間だけで、3兆7000億ドルがプライベート・エクイティのファンドに流れ込んでいる。だがいまでは何百というプライベート・エクイティ会社が存在する。さらに悪いことに、バイアウト会社が開拓した財務面や事業面の戦術は、いまや各企業の最高財務責任者(CFO)にとっての基礎知識となっている。02年以降、KKRのバイアウト・ファンドの中で、出資金を2.4倍以上にしたものは1本もない。

「自らをごまかすのはよそう」と、1981年からKKRに投資しているオレゴン州財務省の最高投資責任者(CIO)ジョン・スキヤヴェムは言う。「仕事は格段に難しくなりつつある」。

ジョージ・ロバーツもLBOについて、こう語る。「もはやそこにアートはない。肝心なのは、このビジネスをこれからどうしていくかだ」
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文=アントワーヌ・ガラ 写真=佐々木 康 翻訳=町田敦夫 編集=岩坪文子

この記事は 「Forbes JAPAN 4月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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