ビジネス

2020.06.16

「野蛮人」から「紳士」へ 悪名高き投資ファンドの進化

KKR共同創業者 ヘンリー・クラビス(左)とジョージ・ロバーツ(右)

1859年創業のミルウォーキーの工業用機械メーカー「ガードナー・デンバー」の物語は、オリバー・ストーンのヒット映画『ウォール街』(87)の続編のようだ。

採油ポンプとコンプレッサーの売り上げが低迷し、ニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場する同社の株価が下落。2012年には日和見的な株主たちが、変化を求めてテーブルを叩いた。ついには経営陣が入れ替えられて、会社は身売り。13年にニューヨークの巨大な企業買収会社が、およそ39億ドルで(うち28億ドルは新たな借り入れ)これを競り落とした。「貪欲は善だ」と語るマイケル・ダグラスこそいなかったが、それを除けば映画と同じような経緯が見られたのだ。

ところが工場の閉鎖、従業員の削減、資産の切り売りといったお決まりの道をたどる途上で、変わった事が起こった。設備の更新や工場の安全性向上、事業の改善などのために、3億2500万ドル以上が投じられたのだ。この新たな資金によって、ガードナー・デンバーは医療分野や環境分野への進出が可能になった。6400人いた従業員は5%増員され、売り上げは15%アップ。営業活動によるキャッシュフローは54%も急増した。17年に同社がNYSEに再上場した際には、全従業員が基本年俸の40%相当の株式を与えられており、その総額は1億ドルに上った。

「ぼくらがいい仕事をすれば、会社の業績も上がる。すなわち株価も上がるってことだ」と、29歳の組み立てラインの主任、ジョシュ・シェルは言う。彼は会社持ちで金融教育を受けて以来、従業員というよりはオーナーのような考え方をするようになった。「全員が勝者になれるんだ」。

この美談めいた物語には2人の意外な「監督」がいる。いまや2000億ドル相当の資産を抱えるプライベート・エクイティ大手、KKRの共同創業者であるヘンリー・クラビスとジョージ・ロバーツだ。

「ひとつの会社を買って解体することなどできない。それは持続可能なビジネスモデルではないよ」と、ニューヨークのセントラルパークを見晴らす個人用の会議室で、75歳のクラビスは言う。「金を注ぎ込み、新たな環境下で新たな製品、新たな工場、新たな事業のやり方を生み出していかないなら、最後には死ぬだろう」。

長年のパートナーである75歳のロバーツは、こう言い添える。「そうしたことに気を配るオーナーや経営陣がいる会社は、市場をアウトパフォームしていくよ」。
次ページ > “パブリック”エクイティの時代に

文=アントワーヌ・ガラ 写真=佐々木 康 翻訳=町田敦夫 編集=岩坪文子

この記事は 「Forbes JAPAN 4月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

ForbesBrandVoice

人気記事