ビジネス

2020.06.16 19:00

「野蛮人」から「紳士」へ 悪名高き投資ファンドの進化


80年代ウォールストリートの「悪玉」に


名のある2人組がたいていそうであるように、クラビスとロバーツも好対照だ。彼らは従兄弟同士であり、70年来の親友でもある。父親たちはそれぞれ石油産業で富を築いた。2人は共にカリフォルニア州のクレアモント・マッケナ大学に通った。

クラビスは、ニューヨークのマディソン・ファンドでキャリアの第一歩を踏みだした。同ファンドはケイティ・インダストリーズという鉄道会社の支配権を握り、その損失によって浮かせた税金を使って企業買収を行っていた。

一方、ベアー・スターンズに職を得たロバーツが出会ったのは、企業部門のトップで、高いレバレッジをかける「ブーツストラップ型買収」と呼ばれる手法を開拓中だったジェローム・コールバーグだった。1960年代の米国企業は、ITTのハロルド・ジェニーンのような野心的な実業家が巨大コングロマリットを築くことによって膨張していた。コールバーグは新たな財務テクニックを使って別の方向から参入し、有能な部門経営者が、肥大化した親会社に関心を持たれなくなった事業を買収する手助けをしていたのだ。

ベアーで地位を上げたロバーツは、クラビスに、コールバーグが考案したバイアウト手法に目を向けるよう勧める。69年に3人は手を結び、ベアー内で小さなチームを運営。クラビスはニューヨークに拠点を置く一方、ロバーツはカリフォルニアに移った。

10件あまりのディールを成功させた後、彼らは76年に独立。当時はまだドレクセル・バーナム・ランバート社のマイケル・ミルケンにジャンク債(リスクプレミアムがついた社債)を引き受けさせて、金をつくることができた。クラビスとロバーツは大企業を即金で買った。コールバーグはそんな攻撃的なビジネスモデルを嫌い、87年に立ち去った。残った2人―特にクラビス―は、前述のベストセラー本の発売後、バイアウト時代の代名詞となった。

KKRの変質は2008年の金融危機以前から始まっていた。意外なことに、彼らの最悪のディールのひとつであるテキサスの電力会社TXUの買収が契機だ。07年2月に契約が結ばれた450億ドルのバイアウトは、TXUが石炭の利用を拡大する計画だったことも手伝って、最初から論議を呼んだ。KKRおよび提携した各社は、このディールを締結する際に、マクドナルドにポリスチレン製の容器の使用をやめさせたことで知られる非営利団体「環境防衛基金」に連絡を取る。クラビスとロバーツは、環境効率と利益の関係に関心を持っていた。

TXUの買収から1年もたたずに、KKRと環境防衛基金は「グリーン・ポートフォリオ」と呼ばれる画期的なパートナーシップに合意する。それによると、KKRは投資先企業の廃棄物や温室効果ガスの排出、水の消費、毒性のある素材の使用などを厳格にチェックすることになっていた。
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文=アントワーヌ・ガラ 写真=佐々木 康 翻訳=町田敦夫 編集=岩坪文子

この記事は 「Forbes JAPAN 4月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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