逆に盛況を博しているのは、自転車店だ。スポーツ用品店でも、自転車コーナーには列ができていた。街には、確実に、自転車が増えていった。
自転車店と人気の双璧をなすのがホームセンターだろう。かく言う私も、外出禁止期間中に種を蒔き、にわか家庭菜園を始めた。外出規制が解かれて数日後、営業を再開したホームセンターに行くと、すでに植木鉢はほぼ売り切れていた。木の板を自分仕様の大きさに切ってもらうコーナーにも、長い行列が見られた。
8週間の完全なテレワーク生活から、午前中は出勤、午後は自宅でテレワークに切り替わった金融系企業に勤める友人は、十分な広さのあるテラス付きのアパートに暮らしており、テラスを充実させることが、より重要になったようだ。
自転車で通勤する彼は、午前中の勤務を終え、5月25日の週に入ってからテイクアウト営業を始めた馴染みのビストロで、ランチをテイクアウトし、午後は家でテレワークという、新たなルーティンを喜んでいた。
規制緩和第1段階は、街が活気を取り戻すというよりも、人々が新たな日常の習慣を徐々に身につけていく、そんな期間だったように感じる。
この2カ月半でセーヌ川の色がきれいに
規制緩和の第2段階を前に、フランスは6月1日の月曜が祝日で、週末から3連休となった。
私は、毎週日曜の朝ジョギングに出かけるのだが、車が少ない祝日の朝も走ることにしている。ところが、日曜である5月31日の朝に比べ、翌月曜の祝日は、車の数がだいぶ増えていた。ナンバープレートを見ると、どれもパリの車だ。セカンドハウスや、田舎で過ごしていた人たちが、ここへきて続々と戻ってきているのかもしれない。
行きがけには、セーヌ川で釣りを楽しむ人たちを見かけた。この2カ月半で川の色が明らかにきれいになった。水際も透明だ。
月曜にジョギングをした帰りには、翌日からの営業再開を前に、カフェがテラス席の準備を始めていた。
テラス席が解禁となった6月2日の夜こそ、だいぶ賑やかだったところがあったようだが、その勢いにブレーキをかけるかのように、翌日から天気が下り坂になった。気温も下がった翌日3日の午後は、穏やかにテラス席での時間を過ごす人々の姿が見受けられた。
ただ、どこの店もテーブルは間隔を取って配置されているものの、例えば2つのテーブルをくっつけ4〜5人で囲んでいることも少なくない。フィジカル・ディスタンスをきちんと取りたい人には、安心できる環境とは言い難いかもしれない。
そして、テラス席のある店は一斉にオープンするかと思いきや、営業を再開していないカフェも見受けられた。サン・ジェルマン・デ・プレにあるカフェの2つの有名カフェを見に行ってみたら、カフェ・ドゥ・マゴは開いておらず、対して、カフェ・ド・フロールは早速、賑わっていて、立って順番待ちをしている人たちもいた。
規制緩和第3段階は6月22日に始まる。首都圏の観光宿泊施設は、そこからの営業再開を見込まれている。その前、6月15日以降には、欧州圏内の国境の制限解除がなされる予定だ。
それまでは、観光客のいない、この街の住人しかいないパリだ。このエフェメールな(儚い)パリを肌で感じ、街が少しずつ目を覚ましていく様子を、記憶に焼き付けたいと思う。
連載:新・パリのビストロ手帖
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