新・パリのビストロ手帖

ラ・フォンテーヌ・ドゥ・マルス「イチゴのピスタチオ風味サバイヨンソースがけ」

案内された席にかけ、バッグを置き、腰を落ち着けて、顔をあげる。周りを見渡すと、「ああ、始まった」と思う。

何度訪れても変わらない、きゅぅっと胸に込み上げてくるそわそわした高揚感と、自分の「好き」を確認できたことへの安堵。その気持ちは、オペラ・ガルニエで良い席を取ってバレエ観劇に出かけ、オーケストラが演奏を始めた時に感じる思いと、とても似ている。

エッフェル塔にも近い、7区の高級住宅地の商店街、サン=ドミニク通りに店はある。1991年、まだ20代だったブドン夫妻は、1908年から「ラ・フォンテーヌ・ドゥ・マルス(LA FONTAINE DE MARS)」の名でレストランとして存在してきたこの場所に、ひと目惚れした。そして自身たちがオーナーとなり、スタートしたのは翌年の4月。それからすでに27年の時が過ぎた。

クリスマスと元旦を除き年中無休で、ビストロ然としたレトロな趣ある店内に、伝統的な料理、そして安定したサービス。オバマ前大統領が、パリ訪問時に家族と食事をしたことが話題になり、アメリカを始めとした旅行客も少なくないが、等しく常連客も多い。

年月が築き上げた安定感が

シェフはオープン時からずっと同じ人物で、いちばんの古株であるメートル・ドテルは25年間勤務、マダム・ブドンも平日は毎日店に立ち、客を迎え、もてなしている。その他にも15年以上と長きにわたり勤めるスタッフが何人もいて、年月が築き上げた安定感がそうさせるのか、家族3世代で食事をするテーブルが、毎度のようにいくつか見受けられるのもこの店の特徴だ。



私が、初めて食事に出かけたのは2004年か2005年あたりだったと思う。当時は改装前で、1階の席数が今の半数だった。それから約15年。いつしか私にとって「ラ・フォンテーヌ・ドゥ・マルス」は、最も定期的に訪れる店となった。

日曜も開いている、寛いだ雰囲気だけれどカジュアル過ぎない、テーブルごとに適度な間隔があるなど、日本からいらした、とくに目上の方をご案内するのに、格好の条件が揃っていることも確かに大きい。でもそれ以上に、目当てに行きたい料理がいくつもあるのだ。

何からご紹介するか迷うところだが、ここは、好きな順で挙げよう。いきなりだけれど、まずはデザート。イル・フロッタント(カスタードソースに湯煎したメレンゲが浮かんだデザート)やババ・オ・ラムなどクラシックなメニューが並ぶなかで、私の目当ては、苺が出回る季節になると登場する「イチゴのピスタチオ風味サバイヨンソースがけ」だ。これを食べると、ああ私の夏が始まった、と思う。

器に入った要素は2つしかないように見える。イチゴとサバイヨンソース。いわゆるパフェのようにいくつもの具材が盛られているわけではない。なのに、これがスプーンが止まらないおいしさなのである。サバイヨンにピスタチオの風味がついているのが勝因か。

私がご一緒したなかで、「これ……うまい!」と言わなかった人は今までいない。

文・写真=川村明子

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