規制が緩和されたのは確かだったが、ある程度の自由を得たことで、逆に、制限や禁止されていることに意識が向かうようになった。
政府は企業に対し、5月11日以降もテレワークの継続を要望した。首都圏の公共交通機関は70%の運行で、席の利用は半数に留められ、ラッシュアワーの時間帯(6時半〜9時半、16時〜19時)においては、雇用証明書の携行者と健康上あるいは子供の送り迎えなどやむを得ない理由のある人以外の利用は禁止された。
それ以外の時間は誰でも利用できるが、11歳以上のマスク着用は義務で、違反者は135ユーロ(約1万7000円)の罰金が科される。
外出制限中は、供給が間に合っていなかったこともあり、商店で買い物をする際に、マスクの着用を求められることはなかった。しかし興味深いことに、規制が緩和されると、一気にスーパーやホームセンターでも、マスクの着用が義務化されるようになった。
例えば、イケアは、5月25日の再オープンを前に、11歳以上のマスク着用の義務のほか、買い物の付き添いは人数を制限し、支払いやインフォメーションカウンター、商品の引き取りなどの問い合わせは一人で為すこと。入口と出口はそれぞれ1箇所で店内には進行方向の矢印矢印が床にマークしてあるので、それに従って進むこと。店に来る前に買い物リストを作成することを推奨し、支払いはクレジットカードの利用を強く要望するといったルールをウェブサイトで公表した。
これまで一度の使用限度額が30ユーロだったコンタクトレスでの決済は、5月11日より50ユーロに引き上げられた。いまでは、カード支払いで暗証番号を押す際には、ブーランジュリーでもチーズ屋さんでも、アルコール消毒液が差し出される。
大通りに自転車だけが往き来している風景
フィリップ首相が4月28日の演説で、「以前と同じ生活には戻らない。我々はウイルスと共に暮らさなければならない」と明言した規制緩和第1段階の生活は、フィジカル・ディスタンスを遵守のうえで、前述のような対策とともに静かに始まった。
天気が良かったことも後押しし、平日の夕方や週末になると、散歩をする人やセータ河岸で日光浴を楽しむ人たちで賑わった。それでも、街がまだ半分ほど眠っている印象を受けるのは、レストランとカフェが営業停止をしたままである以外に、交通規制も大きかったかもしれない。
地下鉄は運行していたが、通勤と通学に重点が置かれており、22時で終了。最終電車の発車は21時から21時半の出発だった(6月6日現在、通常の運行時間に戻っている)。そして、市内の60の駅が閉鎖されていた。パリ市は、乗客数の多いメトロの路線、1番線、4番線、13番線の混雑を緩和するために、並行して走る地上の道路で、車線を臨時自転車レーンに変更した。
現在も、1番線の上のリヴォリ通りでは、バスチーユ広場からコンコルド広場までが一般車両通行止めで、バス・タクシー専用レーンのみが機能していて、残りの車線は全て自転車レーンだ。パリでも有数の交通量があったリヴォリ通りに自転車だけが往き来している様子は、とてものどかな風景だ。
人々は、メトロの利用を避けているようだ。入り口で入場制限が取られることも懸念されていたメトロは、ラッシュ時以外、閑散としていた。平日の昼間でも、私が利用した時は、席が足りないことはなく、立っている人さえいなかった。土曜に乗った時には、車両に5人しかおらず、いささか驚いた。