アマンダは、医療現場に身を置く夫が第一線で闘う中で、自分に何ができるかを考えて前進することで、自身が変化を起こせる範囲が広がっていく感覚を覚えたと言います。
「他に誰もやっていないのであれば、自分が行動をおこすべきです。私の経営者としての存在意義は、必要だと思ったことに投資をして行動に移し、速やかに各組織のトップにアプローチすることだと思っています。私の場合は、ツイッターで各州の知事や、思いつくキーパーソンたち全員に連絡をしました。このタイミングでは、躊躇する方がリスクが大きい。行動を起こすのなら、とことん結果を残さないといけません」
『N.A.bld』が今回新たに生産をスタートさせたマスク。
縫製側と病院側が共通認識と信頼性を高めることができるように標準ガイドラインを提供したことにも、私は彼女のリーダーシップを感じました。
「今回の件で、経営者として生き残ることができるかどうかは、自分のスキルをどうパッケージして売るかにかかっていると実感しました。コロナショックで環境が激しく変わり、将来の雲行きがあやしい中で、どうスキルセットを調整して今のニーズに合わせていくか。ビジネスを持続的に回しながら、自社のあらゆる関係者やコミュニティにどう貢献していくか、どう経済的にサポートできるかを考えて、毎日調整していくのみです。今は、自宅にいながら、隠れたオポチュニティを探り、ありとあらゆるコネクションを繋いで協力者を募り、テクノロジーを駆使してイノベーションを起こしたいと思います」
医療現場を支えるNPO法人を発足
リリー・リューは、シリコンバレーを拠点に活動する投資家で、2018年に大手ビットコイン取引所Coinbaseに買収された「Earn.com」の共同創業者です。
彼女は、ロックダウン直後に、シリコンバレーと中国で活躍する起業家や投資家を募り、医療用防護服やマスクを大量生産して医療提供施設に供給するNPO法人「オペレーション・マスク」を発足しました。
中華系アメリカ人のリリーは、中国に5年ほど住んでいました。昨年末に新型コロナウイルスの集団感染が武漢で発生した時には、中国だけの問題に収まらないことを薄々感じていたといいます。
そして今年3月、アメリカでも新型コロナウイルスの感染が拡大するにつれて明るみになった、医療用防護服やマスクが不足しているという問題は、母親と妹も医師であるリリーにとって非常に身近な危機的状況に感じられ、どうにかしなければならないという衝動にかられました。
特に、マスクの製造プロセスは単純で、紙からできているから生産コストが低いのにも関わらず、供給が間に合っていないことに疑問を感じたリリーは、アメリカと中国におけるマスク生産の現状についてリサーチをはじめました。
すると、医療機関が必要としているボリュームのマスクを確保するには、医療ガイドラインに基づいた形状や性能を満たす製品を生産し、それに必要なコストの資金を調達し、バイヤーのマッチングや物流システムの構築と管理など、包括的なオペレーションが必要であることを知りました。