ビジネス

2020.05.15 07:30

新型コロナ「震源地」の今。危機に立ち向かうアメリカの起業家たち

守屋 美佳

リリーは手始めに、新たにNPO法人をアメリカで設立して、中国で生産した医療用マスクや防護服を輸入するためのライセンスを取得しました。中国の工場では、コロナショックの影響で、生産証明書の詐欺事件が横行していることもあり、随時生産プロセスが監視されています。

また、世界各国でマスクの需要が高まるにつれて、マスクを生産できる工場にアクセスしようとする競合が増え、一つの工場と大きなロットでの発注することが困難になり、複数の工場と直接現地にて契約をしなければならなくなりました。

大規模な資金調達や、中国現地での物流を構築する為に企業と契約するために必要となる多くの書類の精査やフォーマット揃えたりすることができるパートナーを見つけるフローの大半を中国のボランティアが担っています。

一方、アメリカの病院の防護服の在庫を管理する現場では、新規の取引先の審査をすることに慣れていないので、供給基準を満たすかというガイドラインも作成する必要があありました。

「オペレーション・マスク」は、これらの試練を乗り越えて、今はマスクや防護服だけではなく、ガウンなど今必要とされている医療関係のアイテムの供給も手掛けています。

国境を超えたコラボレーションにおいて大切なのは、粘り強さ、スピード、行動力、決断力、そして、現地の文化を深く理解した上での交渉力や適切な期待値を持つことだと、リリーは実感しているそうです。

「今回強く感じたのは、アメリカでの常識や固定概念を捨てることも時には重要だということ。中国には、“Everything is possible but nothing is easy(なんでも実現可能ではあるが、簡単なことは何もない)”という言葉があります。責任感を持ちながら、やり遂げる勤勉なチームを持つことが、成功の鍵だと思います」

ローカル経済を活性化しながら、医療従事者たちの力に


リサ・へリーボは、ファッションに特化したサプライチェーン「Worldwide Supply Chain Federation」の創業者で、ファッション・テック業界で活躍する女性起業家支援プログラム「NY Fashion Tech」共同創業者のひとりです。

Worldwide Supply Chain Federationでは、新型コロナウイルス感染拡大の波が押し寄せる直前に、大手グローバル・アパレル企業と物流管理システムに領域におけるパートナーシップ契約を結び、ビジネスモデルの概念実証をする予定でしたが、経済活動が停止すると共に全てキャンセルとなってしまいました。

そこで、今アメリカが直面する医療業界における課題解決に向けて何かできないかと、準備していたリソースを全て注ぎ込んで、事業内容を転換させました。

アメリカ国内で医療用防護服が不足しているために、海外からの医療物資に頼ることに違和感を感じていたリサは、リストラが相次ぐアパレル業界の新たな雇用をつくることで、ローカル経済を活性化しながら、医療従事者の役に立てることはないのかと考えました。

ロックダウンからわずか11日で、アパレル業界のコネクションを駆使して3000人の運営ボランティアスタッフと、1万人以上の3Dプリンターを使ってマスクや医療用防護服を生産できる有志を集めることに成功。自社のアパレル生産者とバイヤーを繋ぐプラットフォームを、医療防護服の供給・物流情報プラットフォームとして公開することで、病院がバイヤーとして発注したり、個人が寄付できるような仕組みを作ったのです。

しかし、病院へのマスクや防護服の供給は難航。アメリカの病院では病院指定の防護服しか着用することができないという規制があったり、自ら病院の外から持参したアイテムを使用する場合は、病院の免責同意書にサインしなくてはならないというハードルがありました。

アメリカの医師たちがマスクではなく、バンダナなどを着用する羽目になっているのには、そんな背景があります。
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