パンク・ロックの力で人種差別に対抗。40年前、若者が巻き起こした「白い暴動」

1970年代後半、不況にあえぐイギリスでは排外主義が台頭した。ドキュメンタリー映画「白い暴動」 から。

私たちは分断を乗り越えることはできるか


──歴史に“If”は存在しませんが、もし現代にNFのような政党が台頭するとしたら、立場を超えた連帯の運動が生まれると思いますか。

シャー監督にこんな問いかけをしてみた。すると、彼女は世界的なパンデミックの状況と照らし合わせて、こう回答した。

「そうですね。この作品では、誰もがムーブメントを起こすことができるんだというメッセージを伝えたいと、私は願っています。実際、私たちは新型コロナウイルスに関連して、同様な出来事を目にしています。私の地元のコミュニティでは、さまざまな人が集まり、自分たちよりも厳しい立場にある、高齢者やウイルス感染の可能性があるため自己隔離している人、移動が難しい人などを助けています」

RARの音楽フェスには10万人が集まった
10万人を動員したRAR主催の音楽フェスティバル (photograph by Syd Shelton)

それでは、もし人々を分け隔てる「分断」が発生した場合、私たちはどのように乗り越えたら良いのだろうか。

解決の糸口は「人々のパワーと教育にある」と、シャー監督は考えている。RARが発行した同人誌「テンポラリー・ホーディング」を例に挙げ、音楽やパンクについて語る雑誌である一方で、「教育者のような側面」も兼ねていた点が優れていると指摘。「人種差別とは何か」や「イギリスの植民地時代が当時の1970年代後半の生活にどんな影響を与えたか」といった話題を掲げ、音楽の力を借り、さまざまな議論が行われたことがムーブメントの着火剤となった。

RARの同人誌を手にする若者
RARの同人誌「テンポラリー・ホーディング」を手にする学生

日本でも性暴力に「NO」の声をあげ、当事者や支援者らが連帯する「フラワーデモ」の動きが生まれたり、全国に先駆けてヘイトスピーチを取り締まる自治体もでてきたりして、あらゆる差別に反対するムーブメントが生まれている。だが、いつの時代も抗議の声を上げる人にリスクはつきものだ。

そんな彼ら、彼女……私たちにシャー監督が伝えたいメッセージはただひとつだ。

“Be strong and fight for what you believe in.”

(強くあってください。そしてあなたが信じるもののために戦ってください。)

40年前のイギリス社会で起きたムーブメントが、いまを生きる私たちにとっても、手を取り合って声を上げる力を与えているようだ。




日本でも4月3日から公開の「白い暴動」だったが、新型コロナウイルス対策による休業要請で映画館は全国的に閉館しているため、配給会社ツインは、オンライン映画館「アップリンク・クラウド」や「Amazonプライムビデオ」「TSUTAYA TV」など、さまざまな配信プラットフォームで5月31日まで配信もしている。詳細は公式サイトをチェック。

文=督あかり

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