日常の中のささやかな事象には、巨大な作品を生業とする保坂氏の方が気づくことも。「夫の方がアイデアがすっとんきょうで、私よりむしろ『妄想工作』に向いているのではないかと思うこともあります」
保坂俊彦の砂像作品
そんな保坂から、工作のアイデアを直接受けることもあるという。
「よく行く電子工作キットの店で、ゼンマイがジャンク品1個30円で売られていたのでとりあえず100個、買ってきたことがあって。家で動かしていたら夫が『これ、セミの声に似ていない?』というので、セミの姿をゼンマイにかぶせて、できたのがこの『セミの鳴くおもちゃ』です」
「夫も常に新しいことを考えていますし、私も玩具、雑貨からもう一段先にというのはありますね。たとえば電子工作。IoTおもちゃ、『しゃべるぬいぐるみ』みたいなのもできたらなと、うっすら考えています」。
日常で「ちょっと変わった」かそけき発見を重ねながら、作家の意識下で「うっすら」と流れ、しかし今のところ放置されているささやかな野望たち。それらはおそらく今後、思わぬ好機や産業界におけるチャンスを得て、世界の表面に小さいが確かな波紋を起こすいくつもの「モノ」として、立ち上がり続ける。
乙幡啓子◎「デイリーポータルZ」を始めとする媒体で脱力系工作記事を連載するほか、「妄想工作所」名義で雑貨製作・企画を行う。2018年からは山口県長門市の元乃隅神社のご当地キャラクター「トリィネコ」の企画・デザイン・商品展開にも携わる。著書に『乙幡脳大博覧会』(2013年、アールズ出版 刊)、『笑う、消しゴムはんこ。 かんたん、たのしい、おもしろい』(2013年、世界文化社刊)。妄想工作所 https://mousou-kousaku.com/ ツイッター:@otsuhata