ビジネス

2019.11.09

世界に羽ばたく「妄想工作」。個の異発想が仕掛けるマイクロバズの構造

日清公式ツイッターで話題になった「古代エジプト感がすごい」


「当時は、とにかくオーダーが入ったらどうしても受けなきゃ、と思い込み、自分で工場に素材を発注して自分で制作し、自分で在庫を持ち、自分で商品配送までやっていましたが、1年以上やっていたらさすがに疲弊して、もう少し上手くやれる方法があるに違いないな、と考えるようになりました。そこで、問屋さん兼おもちゃ制作会社にすべてお任せして、ロイヤリティだけいただく、ということにしたんです」

商品化の元になった「第一号」は元来、自分で工場とのやりとりで作った商品。だが量産化に当たっては、工場も、流通経路も、値段も制作会社に一任し、その内の何パーセントかをもらうというモデルに切り替えた。彼らが工場を中国への発注に変えた結果、2500円程度だった単価も1300円程度の「マスマーケット価格」になった。

「小さく作って小さく売る」

しかし、マスマーケット向けの制作システムや価格で市場に大量投下することから、見えてきたことがあるという。

「確かに作品のアイデアへの発想の時間は増えたのですが……。マスマーケット向きになった一方、離れていかざるを得ない、得がたい取引先もありました。それに、実際に手を動かして物を作って届ける、というプロセスからは、やはり創作にもフィードバックがあったんですね。市場と直接つながっている生の感覚も無二だったなあと気づき、楽をして刺激は受けられない、と痛感しました。やはり、自分で頑張らないといけないことはあるんだなと」

今は自分が出来る範囲で、自分のブランドを基軸に、「自分のおもしろさを一番買ってくれるお店を通して、一番おもしろがってくれる人たちに届ける」ことを考えている。

「来年はまた、何らかの商業展示会に出展してみようと思っています」


「フェリシモ」の企画サイトで発表して海外でも話題になった「モーセの奇跡ポーチ」、「雑貨大賞」で『あそび部門賞』を受賞した「餃子リバーシ」と「ハトヒール」「アヒール」

できる範囲で自ら制作の手も動かす。価格もマイクロ市場向けに設定する。自然、顧客は限定され、商品が、使う人を自動的に選び澄ますことになる。

だが、乙幡はもともと「職人」気質を軸に発信するマイクロインフルエンサーだ。究極に特化したモノ作りこそが強みの「妄想工作所」であればこそ、エンゲージメントの本当に高い顧客と深度の高い関係を築くことが、ふさわしいブランディングなのかもしれない。

「全部がそこそこ」でも、組み合わせで一流になる

世界で話題を呼んだ「ハトヒール」も、商品化を目指して模索中という。

具体的には現在試作を繰り返しているところで、実際の販売スタート時にはクラウドファンディングを考えている。問題の価格だが、完全な手作りだと10万円以上にはなってしまうため、そこまでの「コレクター価格」にならないように施策中とのことだ。(放射される赤外線を熱分布に可視化した)サーモグラフィーをデザインしたニットセーターなども、商品化を計画中だ。


「体温分布を模した」サーモグラフィーセンサーのニットセーター。これも商品化を計画中だ。
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文・構成=石井節子 写真=帆足宗洋

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