では一体、その「珍奇」ともいえるのに人心をつかむその発想は、どこから来るのだろうか。
乙幡は実は、「自分をそれほどアイデアマンのタイプではないと思っている」という。「たぶん、『本当にこんな物を作ってしまう』ことが合わさっての一本技を、おもしろがってもらえているのでしょう。アイデアだけでもダメだし、技術だけでもダメ、逆に全部がそこそこでも、実際に手を動かすことも合わせて『組み合わせる』ことで評価していただいていると思います」
また、自分の作ったものへの愛着をていねいに感じて、決着がつくまで、たとえば「ネーミングまで全部がんばる」ことの重要さも指摘する。ネーミングでいえば、機械部品の「ベアリング」が仕込んである「ベアリングマ」や「ハトヒール」など、ダジャレながら商品のコアとなる性質を突いていて、たしかに、発音すると口の中にいつまでもうっすらと残るものが多い。
「自分だけが知っている」特徴を、意外な様式と組み合わせる
他にも乙幡は、みんなが知っているものの中に、「自分だけしか気づいていない特徴」があるはず、と指摘する。大部分の人のイメージの中の「死角」に目を向けて、意外性のある素材や様式と組み合わせることで新しい企画になることはある、というのだ。
「唯一の発見ではなく、最初の『死角』には15人が気づいていてもいいんです。他の14人が気づかない『組み合わせ』を考えつければ、無二の企画になりますよね。そしたらもう勝ちではないかなと。万が一、特徴や組み合わせが2番手、3番手であっても、一番いいネーミングを考えるとか。
そのためには、ふだんから路上観察をして、ちょっと変わったことを見つける『癖』をつけていくといいのではないかと思います」
このへんのノウハウは、どうやらビジネスの現場、たとえばプロジェクトの企画にも通じるものがありそうだ。
既出の「ベアリングマ」であれば、熊に、「シャケを加えて振り回す」習性に、「ベアリングという機械部品」を組み合わせることを思いつき、さらに「ベアリングマ」という名前で「決着をつける」ことで、まったく新しい木彫りのクマを市場に問うた。
首の部分に「ベアリング」を仕込んだベアリングマ。このように、鮭の代わりに鉛筆などをくわえさせることもできる。
夫・巨大砂像作家との日常から
実は乙幡の夫は、世界的な巨大砂像アーティスト、保坂俊彦だ。
アーティスト2人の同居生活は、とよく聞かれるというが、「こんな虫がいたよ、ユーチューブでこんなおかしなのを見つけたよ、とか、意外に間抜けな日常です。夫はとにかく生き物が好きなので、犬の散歩に行くといろいろな生き物を見つけてはずっと観察していますね」