新・パリのビストロ手帖

「シェ・アリーヌ」ランチタイムの始まりのショーケース

この店は私にとって天国みたいな場所だ。ビストロではない。レストランでもない。何かと言えば、惣菜も売るサンドイッチ店である。

バスチーユ広場から北東に延びるロケット通り沿いの、もともと馬肉屋だった店舗で、ランチの時間帯、だいたい11時半過ぎにオープンし、15時半くらいまで開いている。

けれど、14時半を過ぎると、ほぼ完売していることがほとんどで、出遅れるとサンドイッチは「ハムとチーズの具でよければできる」などと言われてしまう。12時半から13時半までは、店の外まで伸びる行列が途切れることはない。



「シェ・アリーヌ」は、基本はサンドイッチ店なのだが、毎日、plat du jour(その日の料理)が1品だけ用意される。豚ほほ肉のソテーだったり、ソーセージのレンズ豆添えだったり、いわゆる家庭料理だ。

「13時までに来れば、たぶん大丈夫」

実は、長いこと、この日替わり料理を食べたことがなかった。だいたい、サンドイッチがすでに魅力的で、選ぶことが難しい。シンプルなジャンボン・ブール(ハム&バター)は安定の美味しさだし(これはあるときパンの切り口に惜しげなくバターを塗っている様子を見て、納得がいった)、おかずを挟んだバゲットサンドイッチの「チキンのポトフ」、私はこれが大好きだ。

そのほかにも、太くて燻製香のある濃厚なモルトーソーセージにグリビッシュソースと酢漬けのキャベツなんていう組み合わせもあり、さらに、コッペパンが丸く大きくなったようなタイプのパンも選べる。

メニューは、店の外の壁に、直に書かれている。上から、ハムやチーズを1、2種類挟むクラシックなバゲットサンドイッチ、おかずを具としてバゲットでつくるサンドイッチが8〜10種類、そのあとに、ゴマを散らした大きな丸いパンでおかずを挟むサンドイッチが6〜8種類あって、その下にようやく、plat du jourが控えめに記される。そして、最後にデザートが2〜3種類。

plat du jourはその日に出かけてみないとどんな料理かわからない。おかずサンドイッチも、2〜3種は日替わりの具材が追加されるから、たいていの人は外で立ち止まり、メニューを読んでから入店する。


メニューは外の壁に書かれている

店はとても小さい。左側に設えられたカウンターには、スツールが4つ。同じ幅のショーケースが右側に置かれ、中にはサラダのバットが10種類ほどと、右端には、デザートのリ・オ・レがたっぷり入ったボールが用意されている。

どれも、量り売りで買うことができて、いくつかはサンドイッチの具にもなるものだ。ショーケースの上には、いつも、色よく焼かれたトルティージャ(ジャガイモ入りのスペイン風厚焼きオムレツ)が2皿鎮座している。メニューを見て、熟考の末に何を買うか決めていたはずなのに、目線の高さで現れるこのトルティージャで、再度、迷いが生じる。

文・写真=川村明子

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