中川:経営の考え方も単に「儲けろ」という話ではなく、「持続可能な形にする」と考えるのが正しいと思います。いま、潰れたり、放置されて荒れ果てたりしている神社が多くある。それは経営が回っていないからで、結局のところ持続可能な形になっていないんですよね。
例えば、私が知っている宮司さんは周りの神社の経営が立ち行かなくなり、末社の運営も引き受けている。多分、10社くらいだと思います。ただ、人員スタッフは変わらずにやっていて、宮司さんにしわ寄せがいっていて、少しでも間違えたら全てが崩壊するくらい厳しい状況でやっている。
それは経営がないことの現れで、その状況から脱し、持続可能な形にシフトしていかないといけない。決して儲ける必要はないのですが、それでも一定の収益を生み出さないと持続可能な形になっていかないことも確かで……。
量をとるより質を上げ単価を上げるべき
成瀬:収益がないと設備投資もできない。お寺や神社は日本の文化を伝えていく場所。外観など目に見えるものがあると伝わりやすいのですが、それが天災などでなくなってしまうのは悲しい。昨年、すごくそう感じたんです。
だからこそ、天災によって修理・修正が必要になっても耐えられるだけの収益を地元の人、もしくは観光客で担保できないかと思っています。でもそのときにたくさんの人をどう呼ぼうか、という話になりがちですが、ぼくは日本の文化財はたくさんの人を呼ぶ、量を取りに行く戦略よりも質を高くして付加価値を上げ、一人あたりの単価を上げていく必要があると感じています。
たとえば、お寺の拝観料は他国と比べて、まだまだ低い。サグラダ・ファミリアは入館料だけで3000円、オーディオガイドをつけたら4000円もする。ヨーロッパの方々は文化財に対してリスペクトがあり、維持・管理するために高い入館料を支払っている感覚がある一方で、日本の入館料はなぜ安いままなのか。
20〜30年前に決めた価格から変わっていなくて、価格を変えない理由も周りが変えない、継続してきているから、というものが多いんです。ぼくはずっと同じ価格ではなく、その時々に応じて変えていく必要もあるんじゃないか、と思っています。
ただこう話すと単に価格を上げればいいのか、と誤解されますがそうではありません。大切なのはそこにしかない体験価値。どういった付加価値を来てくださる人々へ提供するか。それを値段にも反映させるという発想です。ON THE TRIPではその場所のオリジナルな付加価値をどう見つけて伝えていくか、という話から手伝うことが多いです。
価格を変えず、安ければ良いと信じずっと同じことをやっているところも多いのが現状です。でも、「伝統とは昔のことを守るのではなく、前衛の積み重ねである」と先日とある住職から伺ったのですが、今だからこそできることもたくさんあります。そもそも寺社は、時代の最先端が集約していた場所なのですから。
中川:病院では経営と医療のトップが別で機能分化しているのですが、お寺ではそういった話はあるんでしょうか?
成瀬:経営と管理側が別形態というのは、大きい組織以外ではあまり聞かないですね。